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競争激化必至のEV…輸入車メーカーに存在感、日本勢は巻き返せるか

競争激化必至のEV…輸入車メーカーに存在感、日本勢は巻き返せるか

メルセデス・ベンツはEVの幅広いラインアップでニーズに対応する

輸入車メーカーが日本市場でのシェア拡大に向け電気自動車(EV)で攻勢をかける。ラインアップ拡充を図るほか、EV普及のハードルである充電インフラ不足という課題に対し独自施設の展開などで解決を図る。圧倒的な存在感を示すのは欧州メーカーだが、アジア勢も進出を始めた。巻き返しを図る日本メーカーを含め競争激化は必至。26日に開幕する国内最大の自動車展示会「ジャパンモビリティショー2023」での各社のEV展示が注目される。(八家宏太)

日本自動車販売協会連合会(自販連)によると、22年の乗用車の国内販売(222万3303台)のうちEVは3万1592台で1・4%を占めた。勢いは衰えておらず、23年度上期(4―9月)ではEV比率は2・0%まで高まった。

存在感を示すのが輸入車メーカーだ。日本自動車輸入組合(JAIA)によると23年度上期(4―9月)の外国メーカーによる輸入車登録台数でEVは、前年同期比94・5%増の1万968台。直近の9月単月でも前月比60・6%増の3163台と14カ月連続の増加し、年間2万台に迫る勢いだ。

世界のEV市場を眺めると、注目地域の一つは欧州だ。国策や社会的な環境意識の高さなどを背景に普及が加速する。現地の自動車メーカーはスポーツ多目的車(SUV)やセダンなど幅広くラインアップしており、日本でもEV販売を加速している。

輸入車販売のブランド別シェアで首位を走り続けるメルセデス・ベンツは19年にEV「EQC」投入以来、ラインアップを拡充。23年も「EQE SUV」を発表し、日本では現在、7車種12モデルのEVを展開する。他ブランドに比べ品揃えの幅広さで先行している。

8月に来日した独メルセデス・ベンツグループのオラ・ケレニウス会長は「日本は重要な市場」と語り、今後も新型車投入を続ける考えを示した。

充電インフラの整備も加速している。輸入車の販売を手がけるヤナセと日本国内では2店舗目となるEQシリーズ専門ショールーム「メルセデスEQ青山」を10月に新設。EQシリーズの展示や試乗サービスの提供に加え、急速充電器を設置して利便性の高さも訴求する。またメルセデス・ベンツ日本(東京都品川区)の上野金太郎社長は、EQE SUVの発表会で「(同社独自の)ハイパワーチャージャー(急速充電器)の設置も検討する」と語った。

アウディジャパン(東京都品川区)はEV「e―トロン」シリーズを展開。24年までに15モデル以上を日本市場に投入する計画だ。利便性向上のため、24年をめどに東海・北陸地域の7県の全販売店に急速充電器を設置する方針だ。

東京都内では24年にも都市型急速充電ステーション「チャージングハブ」の開設を計画する。チャージングハブは予約可能で同時に複数台の急速充電に対応する。欧州では先行して開発、実証実験を実施している。ステーション内にラウンジを併設し充電の待ち時間を利用者が有意義に過ごせるようにした。

アウディは欧州で先行導入した「チャージングハブ」を来年にも東京都内に設置する計画
小型EV「ドルフィン」を紹介する東福寺BYDオートジャパン社長

アジア勢「着々」 手の届きやすい価格で提供

中国の比亜迪(BYD)、韓国の現代自動車(ヒョンデ)といった世界市場で存在感を示すアジアの自動車メーカーによるEVでの日本進出も始まった。

BYDは23年7―9月期で、EVの世界シェアで米テスラに次ぐ2位に付ける。乗用車では高級モデルから廉価モデルまでラインアップするほか、バスでも存在感を発揮している。

BYDは日本でSUV「ATTO(アット)3」、コンパクトEV「ドルフィン」を販売。ドルフィンは消費税込みの価格が363万円と、ガソリン車に比べて高価なEVの中で低価格だ。日本での販売を担うBYDオートジャパン(横浜市神奈川区)の東福寺厚樹社長は「顧客にとって価値のあるEVを手の届きやすい価格で提供できるのが一番のアピールポイント」と語る。

対面での販売にこだわり、25年までに100店舗以上の販売店を開設する計画で、24年にはセダンタイプEVも発売予定だ。

ヒョンデは10年に日本市場での乗用車販売から撤退したが、22年にEVに特化する形で再進出。クロスオーバーSUV「IONIQ(アイオニック)5」、「NEXO(ネッソ)」を販売しており、11月には新型車「KONA(コナ)」を発売する。

車両販売以外にも、シェアカーやレンタカー車両としても展開している。日本の自動車業界でもデザインや性能面で「想像以上に高品質」と評価する声は多い。

「モビリティショー」行方占う 巻き返し狙う国内勢

豊富な品揃えで輸入車メーカーが存在感を示す国内EV市場だが、国内メーカーも巻き返しを狙う。現状で存在感を放つのは日産自動車の「サクラ」「アリア」「リーフ」だ。このうち軽自動車のサクラは、日常の生活圏での移動手段として一般消費者に評価されているほか、移動範囲が限定された用途で官公庁の公用車としても導入されている。

日産の軽EV「サクラ」

ほかの国内メーカーも将来的な新型EV発売に向け、バッテリー改良や車体軽量化などをテーマに研究開発に取り組んでいる。

日本のEV販売は急激な伸びを示しているが、乗用車市場に占める割合はまだ2%に留まる。充電インフラの整備はまだ途上であり、その普及速度は市場拡大の行方に影響を与える要因の一つとなる。また今後、ゲームチェンジを起こすような新技術を採用した新型EVが市場投入されれば、競争環境が激変する可能性はある。

東京・有明の東京ビッグサイトなどで26日から開かれる「ジャパンモビリティショー2023」ではメルセデス・ベンツがEVの新型車を展示するほか、BYDも出展する。トヨタ自動車や日産など日本メーカーはEVの新たなコンセプトモデルを披露する予定だ。

現状では欧州の輸入車メーカーが存在感を示すが、勝負は始まったばかり。ジャパンモビリティショーでメーカー各社はどのようなEVをアピールし、それを来場者はどう評価するのか。日本のEV市場の行方を占う機会となる。


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日刊工業新聞 2023年10月24日

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