ビールメーカーの競合激化、小規模店にも波及…小型サーバー続々投入
キリンビールやサントリーが、業務用ビールで小規模の飲食店の開拓を強化している。ビール大手にとっては居酒屋チェーンやビアホールなどの大型料飲店が主戦場だが、コロナ禍を経て飲酒がメーンではないラーメン店やカフェ、個人店などの需要を取り込む。キリンは3リットルの小容量サーバーを2023年に2万店に導入する計画が、月内での達成が確実になった。サントリーは350ミリリットルの缶ビールから“生ビール”のように抽出する新型サーバーで攻勢をかける。(編集委員・井上雅太郎)
「コロナ禍を経てお客さまは食事の質にこだわる傾向が強まり、店側も品質の高いビールの提供が求められる」と、多田寅サントリー執行役員は指摘する。小規模店舗向けは瓶ビールなどで対応していたが、クリーミーな泡や適正温度で提供できるサーバーのニーズは高い。加えてコロナ禍で飲酒の需要が減少したため、生樽(たる)サーバーの小容量化のニーズも出ていた。
キリンは3リットルの小容量ペットボトルによる生ビールサーバー「TAPPY」を小規模店舗向けに提供している。ペットボトルごとサーバーに収納・保冷できる。ビールの抽出経路を短くした構造により洗浄なども容易なのが特徴だ。
21年4月に全国展開を開始し、23年3月末までに1万5000店に導入している。さらに、新型コロナウイルス感染症が「5類」に移行後、業務用酒販店との協業を強化するなどで販促を拡充した。同社は「年内に2万店に拡大する計画だったが、需要拡大とともに販促も奏功し、月内に前倒しで達成する」と明かす。これを機に24年にはさらに攻勢を強める。
一方、サントリーは常温の缶ビール「ザ・プレミアム・モルツ」をセットするだけで、4度Cの適正温度で“生ビール”のように抽出できる新型サーバー「ノミーゴ」を開発、首都圏でテスト展開を開始した。多田サントリー執行役員は「販売数量が限られて生樽サーバーを設置できない小規模店舗が、缶ビールを使い“生ビール”のような品質で提供できる」とアピールする。
サーバーに缶ビールをそのままセットすると自動で開栓し、ガス圧の調整不要で冷えたビールを抽出できる。専用コックを使いクリーミーな泡もつくれる。1缶ずつの使い切りで、配管構造に残液が残りにくいため洗浄も容易になる。
同社は23年内に首都圏でラーメン店やファストフード店などを中心に100店舗の導入を見込む。エリアを順次拡大しながら、5年ほどで1万店に拡大する計画だ。
新型コロナの落ち着きに伴い、業務用ビールの需要回復が本格化しており、ビール各社による競合激化が小規模店にも波及していきそうだ。