「ズーム」に香りもハグも…根底に流れるCEOの世界観
人つなぐ社会インフラに
米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZVC)はビデオ会議システム「Zoom Meetings(ズーム)」に、利用者がスムーズなコミュニケーションを取れるよう人工知能(AI)を活用している。「すべての人に幸せを届ける」というカルチャーの下、電話やチャット、メールなど総合的なプラットフォーム(基盤)として進化する。
米ZVC創業者のエリック・ユアン最高経営責任者(CEO)は、大学進学を機に遠距離恋愛となった恋人に気軽に会えるツールがほしいと感じ、ズームを構想したという。「2035年までに相手の飲んでいるコーヒーの香りが伝わり、ハグできるようなコミュニケーション体験を実現させる」とエリックCEOが語る世界観がズームの根底に流れる。
実現には利用者が前向きな気持ちでコミュニケーションを取れる環境が重要だ。「画面に顔を映す心理的障壁を下げる」(西浦亮ZVC JAPAN執行役員)ため、AIで被写体を識別して背景を消す仮想背景やアバター(分身)、肌をきれいに見せるフィルターなどの機能を搭載している。
「ビデオ動画を使うことを起点にサービスを作り込んでいるため、通信が切れづらく安定している」(八木沼剛一郎執行役員)点も快適に使える強みだ。ネットワークの帯域が限られている場合には、利用者が背景よりも注目しやすい人の顔をAIで特定して解像度を優先的に向上。動画を圧縮して安定した通信につなげている。
コロナ禍で広まったテレワークによりビデオ会議システムが脚光を浴びたズームだが、カレンダーにメールやチャット、会社にかかる電話を社内外で取れるクラウド電話、コンタクトセンターなど機能は幅広い。業務のプラットフォームとして活用できる。「各機能はシームレスにつながる。アプリケーションを切り替える必要がなく、仕事に集中できる」(西浦執行役員)。
ズームはプライベートでの利用者も多い。今後は職場だけでなく、高齢化が進む市町村などでの活用も目指す。デジタル機器の使用は不得意でもテレビのリモコンを使える高齢者は多い。「テレビの画面を切り替えると役所やネットスーパーにつながるといったことを考えている」(下垣典弘会長兼社長)。
「新たな社会や世界観を描く手段としてズームを提供し続けたい」(同)。ズームは社会インフラとして、人と人をつなぐデジタルプラットフォームへの歩みを進めている。(熊川京花)