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鉄スクラップ検収作業にAI導入、メーカーが実感した効果

鉄スクラップ検収作業にAI導入、メーカーが実感した効果

トピー工業は、豊橋製造所でのシステム本運用に向けて検討を進めている(トピー工業提供)

電炉メーカーが主原料とする鉄スクラップを検収する現場で、人工知能(AI)システムの運用や実験が進んでいる。検収は作業員によって鉄スクラップの等級分けの習熟度にバラつきがあることや、人手不足による人員の確保が課題になっている。電炉メーカー各社はこうした課題をAIで解決し、収益力を底上げする考えだ。すでにAIシステムを導入した電炉メーカーはその効果を実感し、鉄スクラップの検収以外の活用も検討している。(山田諒)

検収は、電炉メーカーが業者から持ち込まれた原料の鉄スクラップを確認する作業だ。検収では、スクラップのグレーディング(等級区分)のほか、鋼材を製造する上で混入していると設備の不具合や製品の品質低下を引き起こす禁忌物や不純物の発見、除去を行う。

従来、検収は人の目視により作業が行われてきた。ただ、スクラップは、検収員によるグレーディングによって買い取り価格が変わってくる。検収員の熟練度によってその価格が変わり、電炉メーカーの収益にも直結。検収員自体の募集や育成も重要な課題だった。

東京大学発のスタートアップ企業で、カメラとAIを使った鉄スクラップの解析システムを開発したEVERSTEEL(エバースチール、東京都文京区)の田島圭二郎社長は「電炉はとにかく人が足らない業界。また検収作業は担当者のコンディションやセンスでバラつくのが課題だった」と開発の背景を明かす。

さらに田島社長は「検収員1人の年間の作業量は、買い取り価格で数十億円レベル。熟練度が違うだけで、価格が年間数千万円変わる可能性がある」とした上で、「検収員を一人前にするには数年を要するといわれる。AIを使うことで、適正な買い取り価格の支払いなどに寄与し、電炉メーカーの収益改善にも貢献できると考えている」と話す。

複数の高炉メーカーがエバースチールと共同でシステムの実験や運用に取り組んでいる。トピー工業は豊橋製造所(愛知県豊橋市)の検収作業でシステムの実証実験を2022年12月に開始した。検収作業員の技術向上や人手不足を補うのが狙いで、グレーディングや異物検出でAI活用の可能性を探った。

これまでトピー工業は、経験年数の異なる12人体制で検収を実施。実験の結果、同社の野秋明弘執行役員スチール事業部長兼豊橋製造所長は「熟練者と同じレベルの検収ができることが分かった。スキルのない作業者でもシステムを使えば、検収対応できるようになった」と効果を実感している。実験は終了し、実運用に向けて検討を進めている。

人の限界、バラつき克服

東京製鉄は、宇都宮工場でEVERSTEELの検収システムを活用。検収員の手元の端末に、検収結果が表示される(EVERSTEEL提供)

東京製鉄は22年12月に、エバースチールのシステムの本運用を始めた。宇都宮工場(宇都宮市)のスクラップヤードの一部で、システムを使ってグレーディングや異物のチェックを実施した。

システム導入の主目的は、検収評価の平準化だ。購買部門を取り仕切る津田聡一朗総務部長は「どんな時にスクラップの搬入があっても、レベルを変えずに検収することが理想。ただ、それは人だとどうしてもバラつきが出てしまい限界があった」と話す。

エバースチールから、システム実験の場として協力要請されたことがきっかけで実験が始まり、本運用に至ったという。 津田部長は「これまで検収作業は属人的だった。どれだけ人に頼らずにできるかを主眼に置いた」としている。現在は検収員とシステムの二重チェック体制となっており、「検収の精度は高まっている。ゆくゆくは省人化につなげていきたい」としている。

エバースチールは、検収のほか、材料の配合や溶解といった電炉メーカーにおける「下工程」でのAI活用も視野に検討を進めている。田島社長は「検収で得た情報を他工程に共有するなどして、鉄リサイクルのさらなる推進に貢献したい」と語る。

AIは産業界で広く活用が広がっている。鋼材の供給元として重要な使命を担う電炉メーカーでも、AIの重要度が高まっている。


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日刊工業新聞 2023年08月16日

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