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年産能力150-200万トンの大型電気炉、日鉄が八幡を導入候補地にする背景

年産能力150-200万トンの大型電気炉、日鉄が八幡を導入候補地にする背景

大型電炉への転換を検討している八幡地区(北九州市戸畑区)の高炉

日本製鉄は八幡地区(北九州市戸畑区)などで1基当たり年産能力が150万―200万トンの大型電気炉を導入する検討を進めている。2030年までに現在の高炉1基を電炉2基以上に転換する見通しだ。森高弘副社長は日刊工業新聞社の取材に「八幡では年400万トン程度の粗鋼生産能力を維持する前提だ。電炉化には生産量がミドルクラスの製鉄所が適切で、高炉更新のタイミングも踏まえ候補とした」と選定の理由を語った。

電炉で生産する場合、二酸化炭素(CO2)排出量が高炉の約4分の1。日鉄は30年度のCO2排出量を13年度比30%減とするため水素還元製鉄の技術開発などを進めており、電炉化はその一環となる。検討する電炉1基は1チャージ300トン級。ただ森副社長は「高炉に比べ生産性は低い。一方で粗鋼生産1000万トンクラスの製鉄所で電炉を何基も置くのは非現実的」と述べた。

120年を超す歴史を持つ八幡地区は「電炉化によって、環境に優しい象徴的な拠点になる。(併せて大型電炉を検討している)広畑地区(兵庫県姫路市)とともにすでに電磁鋼板の2大拠点。広畑は(年産能力70万トンの)電炉で高級鋼を先行生産しており、(ノウハウの横展開で)八幡では安心して電炉をつくれる」との考えを示した。

一方、電気自動車(EV)モーター用の電磁鋼板の生産を増強するため、阪神地区堺(堺市西区)を三つ目の拠点に決めたことについては、「(薄板ラインの一部設備休止という)構造改革で生まれたスペースや、既存の建屋や設備の一部を有効活用し、投資をミニマムにできる」とメリットを強調した。

森日鉄副社長

さらに日鉄が24年3月期連結業績予想(国際会計基準)の在庫評価影響などを除く実力事業利益で、前期比9・0%増の8000億円以上を予想することに関しては、「橋本英二社長が言うように、達成できれば収益建て直しの意味では“終結宣言”を出せる」と語った。その場合、25年春に予定する鹿島地区(茨城県鹿嶋市)高炉1基休止の扱いは「予定通り休止する。鉄鋼内需の縮小、海外の地産地消ニーズに伴う輸出の限界という構造は何ら変わっていない。むしろコロナ禍で前倒しされた」とし、構造改革メニューの完遂は必須との考えを示した。

ここ数年、改善している大口顧客向け「ひも付き価格」には「顧客との間で価格の先決め、3カ月単位での見直しを進めている。短期的には原材料価格などの変動もあろうが、現状のマージンは年間で一定を維持できるよう対応していきたい」と語った。

日刊工業新聞 2023年05月26日

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