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脱炭素化“原資”は10兆円とも…高炉業界はいかに収益力を高めるか

脱炭素化“原資”は10兆円とも…高炉業界はいかに収益力を高めるか

決算発表の会見に臨む日鉄の橋本社長

高炉系鉄鋼3社は脱炭素の取り組みを本格化するため、収益力を強化する。各社とも2024年3月期連結決算は本業のもうけのうち、在庫評価影響など一過性要因を除く“実力事業利益”の増益を見込む。大口顧客向け「ひも付き価格」を適正水準に改善しつつ、余剰生産能力の抑制や生産効率の向上でコストを低減。自動車生産などの早期本格回復が望みにくい中で、水素還元製鉄の開発や電炉シフトを進めるべく「量から質への転換」を一層定着させていく。(編集委員・山中久仁昭)

「計画する“実力利益”が出せれば、経営立て直しとしての構造改革は完遂を宣言できる」。日本製鉄の橋本英二社長は決算発表会見でこう力を込めた。

日鉄が公表した24年3月期連結決算(国際会計基準)の当期利益予想は在庫評価益剝落(はくらく)や円高影響で前期比46・7%減だが“実力事業利益”は8000億円超と3年連続の最高益を見込み。将来目標に掲げる「事業利益1兆円」にぐっと近づける。

見かけの数字に一喜一憂せず、持続的成長を目指す姿はJFEホールディングス(HD)も同じで、24年3月期連結決算(国際会計基準)の事業利益は同23・0%増の2900億円を見込む。“実力事業利益”は2800億円で、うち鉄鋼事業では1900億円を予想する。

同社は鉄鋼の実力値を示す指標で「トン当たり利益1万円」を目標に掲げる。「24年3月期に9000円に到達させ、25年3月期は1万円以上を目指す」(寺畑雅史副社長)。

神戸製鋼所が11日発表した24年3月期連結業績予想の経常利益は前期比21・7%増の1300億円。2社と同じく、車生産や海外市況の回復が遅れ鋼材出荷量が伸び悩む中で「実績が出ている(ひも付き)価格改善に継続して取り組む」(勝川四志彦副社長)。

3社とも鋼材の平均単価は23年3月期に前期比で3万円前後上がった。神鋼は原料高騰分の転嫁が遅れたアルミニウム、建機事業で値上げを進め適正なマージン確保に努める。

鉄鋼業界で脱炭素化は待ったなしだ。二酸化炭素(CO2)排出量は国内産業界の約4割を占め、高炉3社は水素還元製鉄などの開発にいそしむが「30年度のCO2削減目標の達成には、(開発に時間を要する水素還元より)電炉化を優先する」(日鉄の橋本社長)のは現実的選択だ。

日鉄は北九州市戸畑区で、JFEは岡山県倉敷市で高炉から電炉への転換を検討する。神鋼は米完全子会社の還元鉄生産技術を武器にプラントの海外拡販に余念がない。業界全体で10兆円ともいわれる脱炭素化の“原資”を獲得すべく、収益力向上は必須となっている。

日刊工業新聞 2023年05月12日

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