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和歌山大が設置する「地域との共創基幹」が成果を上げた理由、3年で3倍の相談件数

和歌山大が設置する「地域との共創基幹」が成果を上げた理由、3年で3倍の相談件数

観光資源のビジネス化を目指す(熊野古道プロジェクト、和歌山大提供)

和歌山大学が2020年4月に設けた「紀伊半島価値共創基幹」(Kii―Plus、キープラス)を活用し、自治体などからの相談対応件数を3年間で約3倍に伸ばすといった成果を上げている。同基幹には常勤の自治体幹部経験者のほか、企業や自治体の実務担当者が週1回以上勤務する。連携相手の予算やマンパワーへの目利き力を生かし、熊野地域の観光支援などの複数案件で社会実装を進めている。

紀伊半島価値共創基幹の「地域連携統括役」(プログラムオフィサー)は、元和歌山県田辺市部長など2人が務めている。同大の地域連携事業全体を担い、県内や大阪府南部の市町村首長と同大学長の対話で出てきた課題への最初の目利き役でもある。

また「価値共創研究員」として和歌山県海南市、南海電鉄、同県社会福祉協議会から計3人がクロスアポイントメント(複数組織との雇用契約)制度で活動している。地域のニーズを学内に持ち込み、課題解決に向けたプロジェクトを教員と遂行する。契約期間後もコーディネーター役として活躍してもらう。

自治体や企業から同大への相談件数は19年度は22件だったが、キープラスを発足した20年度は36件、21年度は55件、22年度は63件と年々増加している。

具体的な社会実装事例も生まれている。日本ユニスト(大阪市西区)と連携し、世界遺産・熊野古道沿いの宿を整備。歴史的・文化的な価値を盛り込んだ観光商品の開発に着手した。阪急阪神百貨店とは和歌山グルメのイベントを開催。和歌山市とは外国にルーツを持つ子どもへの母語・日本語でのサポート方法を検討している。

地方大学は地域連携での課題解決を重視しているが、担当教員任せで続かない場合も多い。同大では地域人材雇用による工夫が功を奏している。

日刊工業新聞 2023年04月21日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
クロスアポイントメントはまず、大学などの研究者間で広がった。大学などと企業の間での実施も近年、少しずつ増え、組織にも個人にも刺激が多い方式だと思う。和歌山大のケースは、自治体などの仕事を本務とする実務家が、大学の地域・社会連携をリードする大学の“価値共創研究員”として関わる点がユニークだ。「週1回、2週に1回といった頻度でも効果がある」といい、その程度であれば大学も新たな人件費手配をしやすい。地域の大学にとって有効な手法なのではないか。

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