家庭に快適 “全館空調”、住宅後付け・高断熱用など提案積極化
住宅メーカーや工務店、住宅設備・建材メーカーが住宅全体を一年中適温に保ち、効率的に空調を行う全館空調の投入・提案を積極化している。既存住宅に後付けできる商品や中小の工務店でも取り扱える商品など、各社は取り扱いを強化。部屋ごとの温度差を小さくでき冬場のヒートショック予防や快適な生活を提案するのに加え、電気代が高騰する現在、年間消費電力を抑えられることも訴求し、高付加価値商品の拡販につなげる。(田中薫)
気象庁が6月に発表した3カ月予報によると、7―9月の平均気温は平年並みまたは平年より高くなると予想される。熱中症で救急搬送される患者の最も多い発生場所が住居であり、猛暑日が予想される中、住宅向け全館空調システムへの注目も高まっている。
パナソニックホームズは自社が建築した既存住宅向けの後付けできる全館空調「リフォーム用全館空調」を5月に投入した。複数階をまとめてだけでなく、ワンフロアだけを選択することも可能。複数階建ての場合の消費税込みの価格は約380万円からだが、ワンフロアのみの場合は250万円台から設置でき、年間の消費電力も抑えられる。今後同社の住宅以外にも販売対象を広げる方針だ。
LIXILはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準を上回る断熱等性能等級6以上の高断熱住宅のみを対象とする全館空調「エコエアファイン」を6月に発売。現在は断熱等性能等級6の住宅市場は小さいが、大手ハウスメーカーが徐々に同等級以上の性能を持つ商品の発表を始めたことを受け、今後早期に市場が拡大すると見て対象を絞って投入する。
夏は住宅上部にたまる熱気を取り込み、冷気を住宅全体に行き渡らせる。高断熱・高気密な環境で効率的に空調を行うため、消費エネルギーを抑えられる。同社の一定条件下での試算によると、年間冷暖房費はエアコンの間欠運転に比べ約7000円安い3万9000円。また設計時に空間ごとの季節や時間帯に応じた空調負荷の計算を行うサービスを付加する。空調の能力を超える負荷が生じる場合には同社の遮(しゃ)熱や断熱性能の高い建材を提案し、どのような住宅でも空調の効果を発揮するように補助する。
全館空調の導入には性能計算や設計に関する知識が必要となり、専門技術者を持たない中小の工務店では取り入れにくい。そこでシステック環境研究所(東京都杉並区)はアキレス、YKK AP、日本住環境(東京都千代田区)と連携し、中小向けの全館空調「エクセレントハウジングシステム」を展開する。システック環境研究所の全館空調を中心に断熱・遮熱性能や開口部性能、換気・気密性能を各社が計算、自社製品を提案し、中小の工務店が全館空調を取り扱えるよう支援する。
全館空調の効率を上げるには住宅の性能を高める必要がある。冬は断熱などの重要性が周知されているが、「夏場がポイントになる」(LIXILの笠井達也ZEH推進事業部長)という。夏は断熱・気密だけでなく日光の遮蔽(しゃへい)も重要。住宅メーカーや住宅設備・建材メーカーにとっては「高付加価値商品の提案にもつながる」(同)ため、各社は設計の補助や性能計算などのサービスに力を入れ、需要を掘り起こしていく。