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製造業の競争力維持に必要なこと…23年版「ものづくり白書」の警鐘

製造業の競争力維持に必要なこと…23年版「ものづくり白書」の警鐘

日本の製造業の競争力向上にはデジタルを使った高度化が不可欠(イメージ)

産業のデジタルシフトが日本の製造業に変革を迫っている。デジタル技術の進展で水平分業が進み、外部のリソースを活用した新興企業が台頭するなど競争環境が変化。グリーン・トランスフォーメーション(GX)の実現に向け、個社やグループ会社を超えてデータを共有する重要性も高まる。2023年版ものづくり白書は、デジタル化の推進が日本の製造業の競争力を維持する上で急務であると警鐘を鳴らす。(下氏香菜子)

製造業の水平分業加速 知見・ノウハウ、外部リソース活用

世界で製造業の水平分業が加速している。背景の一つに生産ラインの設計や現場のオペレーションなど製造プロセスのデジタル化・標準化の進展がある。製造に関する知見やノウハウをクラウド経由で外部に提供する製造ソリューション事業者の登場で、異業種から製造業への参入障壁が下がり、新興企業が急成長する動きが出始めている。

ベトナムのビンファストはこうした外部のリソースを活用し、完成車事業に参入した企業の1社だ。同社は不動産業を中心としたビジネスを展開するビングループが17年に設立。独シーメンスなどが提供するサービスを通じ、自社工場に大手自動車メーカー並みの生産ラインや生産技術を導入。自動車の基盤技術を持たないビンファストが、創業から通常より半分程度の21カ月で工場を稼働した。25年までに電気自動車(EV)など年間50万台生産する計画を掲げる。

日本でも製造業向けサービスを展開する企業が存在感を高める。人工知能(AI)を活用したオンライン型部品調達サービスを開発し企業の納期短縮を支援するミスミグループ本社や、プラント設計の熟練ノウハウをデジタル技術で形式知化したアレントなどだ。製造業のデジタル変革(DX)を後押しする存在として期待されている。

これまで日本は、設計・開発・製造・販売など垂直統合型のビジネスモデルと現場作業者らによる技術の磨き上げにより、モノづくり立国の地位を確立した。ただ優れた技術が外部から調達できる環境が広がりつつある中、勘やこつ、経験だけで競争力を維持できるか不透明な状況だ。自社の強みを見極め外部のリソースを活用しながら、経営資源を集中させるなど、デジタルを活用した柔軟な対応が求められている。

日本の製造業が競争力を維持する上で直面するもう一つの重要課題が、企業やグループの枠を超えたデータ連携だ。

欧州は24年に域内で販売する蓄電池について製品のライフサイクル全体における二酸化炭素(CO2)排出量「カーボンフットプリント(CFP)」の開示を義務化する制度を始める。CFPの開示に対応できない場合、EVなど蓄電池を搭載した製品が事実上、販売できなくなる。

23年版ものづくり白書によると、日本の製造業のうちCO2排出量の可視化に関する企業間を超えたデータ連携について、すでに取り組みを実施している企業は全体の4・4%にとどまった。日本の製造業は取引関係がケイレツやグループ会社間で固定化されており、「企業やグループを超えたデータ連携の必要性がなかった」(経済産業省)ことが背景にある。

企業・業界超え、連携基盤構築

個社の枠組みを超えたデータ連携では欧州が先行する。4月にはドイツ企業が中心となり整備した自動車産業におけるデータ連携プラットフォーム「Catena(カテナ)―X」が始動した。

BMWやボッシュ、BASF、SAP、シーメンスなどサプライチェーン(供給網)を構成する100社以上の企業が参加。オープンなプラットフォームでありながらデータの主権は参加企業が持つ。CFPの把握はもちろん、データ連携による新たなビジネスモデルの創出を目指し、東南アジアなど欧州以外の企業に対し、参加を呼びかけている。

日本では経産省が、企業や業界を超えたデータ連携に必要な基盤構築に関するプロジェクト「ウラノスエコシステム」を始めた。蓄電池のCFPへの対応はもちろん、物流、人流、金流など幅広い分野でのデータ活用、共有を進める。カテナ―Xなど海外のデータ連携基盤との相互運用の調整も行い、国内外で認知度を高めることでガラパゴス化を防ぐ。24年度のサービス提供開始を目指す。

GXや経済安全保障への対応など先行きが見通しにくい複雑な事業環境が続く中、データ連携に遅れると供給網から排除される恐れがある。データ連携による供給網の最適化を実現するには、供給網を構成する企業1社1社がデジタル化と向き合う必要がある。

インタビュー・データ共有、供給網最適化/経済産業省製造産業局長・山下隆一氏

日本の製造業の課題や今度の政策の方向性について経産省の山下隆一製造産業局長に聞いた。

―複雑化する事業環境の中で、日本の製造業が抱える課題は。
「日本の製造業は生産現場の部分最適に強みがある一方、全体最適には課題がある。データを活用しきれていないため問題が放置され、改善のチャンスを失っている。今後はCFPへの対応などデジタルを前提とした世界が広がる。これまでの経験やノウハウをデジタルを使って表現し、デジタルを手の内化してさらに強みを伸ばしてもらいたい。新しい技術を取り入れ、磨きをかけるのが得意な日本の製造業なら可能なはずだ」

―企業やグループを超えたデータ活用で後れを取っています。
「ケイレツなど固定的な取引関係は平時には高い生産性を発揮するが不確実性への対応は弱い。災害時など有事において調達先を機動的に変更するには、個社やグループを超えたデータ共有が必要だ。高度かつ複雑なモノづくり技術や熟練技能者の強みを生かしつつ、データ活用で供給網の最適化に取り組み、競争力を強化することが重要だ」

―ドイツが主導するカテナ―Xなどデータをめぐる海外の動きが日本の製造業に与える影響は。
「産業横断型の(データ共有を実現する)データスペースは、データ主権のあり方やセキュリティー面で課題はあるものの、供給網の最適化や生産性向上を広範囲で達成できる可能性を秘める。一方、個別の事業者にとってはデータ連携の仕組みが整備されていなければ、供給網から除外される恐れがある。製造業のデジタル化支援を強化する。投資支援など従来型の政策に加え、製造ソリューションを展開するイネーブラーの育成にも力を入れたい」

―GXの推進に向け製造業の事業環境をどう整備しますか。
「国内の複数企業による自律的な連携や、企業・組織再編を促す環境整備が重要だ。例えば水素、バイオエタノールなどを複数社で共同調達し、調達コスト負担を減らす戦略などが企業にとって必要になる。独禁法の課題を整理し、企業の取り組みを後押しする対応を検討したい」

日刊工業新聞 2023年06月30日

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