日立の成長をけん引するIoT技術基盤「ルマーダ」の現在地
日立製作所がIoT(モノのインターネット)技術基盤「ルマーダ」関連の事業を着実に拡大している。2025年3月期には連結売上高に占めるルマーダ事業の割合を23年3月期実績比7ポイント増の33%に引き上げる計画。「ルマーダ事業の拡大が日立全体の成長をけん引する」(小島啓二社長)。子会社売却などの構造改革が一段落したことも好材料だが、海外での人材確保や顧客基盤の強化を加速して自社の飛躍につなげられるかが問われる。(編集委員・小川淳)
「事業ポートフォリオの改革は一区切りがついた。今後はサステナブル(持続可能)な成長へと経営の主軸を切り替えていく」。小島社長はこう強調する。
23年3月期には日立金属(現プロテリアル)や日立物流(現ロジスティード)などの株式売却が進み、現在、上場子会社はゼロとなった。さらに自動車部品事業子会社の日立Astemo(アステモ)の出資比率を23年9月に引き下げて連結から外すことを決めるなど、10年以上続いてきた日立の事業再編は、ほぼ完了した。
これらの事業再編を経て、日立は現在、社会イノベーション事業に経営の軸足に置く。その中核となるのがITやOT(制御・運用技術)、製品によって顧客の経営課題を解決するルマーダ事業だ。
世界的なデジタル変革(DX)やグリーン変革(GX)の流れを受け、ルマーダ事業の売上高は25年3月期に23年3月期実績比約35%増の2兆6500億円を計画する。調整後EBITA(利払い・税引き・償却控除前利益)では同約56%増の4200億円を見込み、連結全体に占める割合は同6ポイント増の44%まで拡大する予定だ。「順調にルマーダのポーション(割り当て)が上がっている」(河村芳彦副社長)ことが分かる。
ルマーダは事業自体が拡大すればするほど、特定の顧客のために開発したソリューションを別の顧客に対しても提供できるメリットがある。このため、「これらの再利用が進むことが利益率の向上につながる」(小島社長)と計算する。22年度には登録したソリューション数が18年度比で約3倍となる202件にまで増えた。導入事例は22年度に1330件と18年度比で倍増した。
さらに今後のルマーダ事業の拡大のカギを握るのが、21年に約1兆円で買収した米IT企業のグローバルロジックだ。スペインやメキシコにデジタルエンジニアリングセンターを相次いで開設するほか、ルーマニアやウルグアイのデジタルエンジニアリング企業を買収するなど、グローバルな事業展開を急ぐ。大型買収によって取り込んだ人材や顧客基盤などを生かし、ルマーダを核にした好循環を実現することでグローバルな成長を目指す。
また、世界的なブームとなっている生成人工知能(AI)を社内外で積極的に利活用するための社内組織「ジェネレーティブAIセンター」を設置し、6月から顧客へのコンサルティングサービスを始める。ルマーダ事業との相乗効果も期待しており、生成AIを取り込むことでさらなる業務改善プロセスなどを顧客に提供し、差別化につなげる構えだ。
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