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150兆円の巨額投資が動き出す、GX実現へ業界別・工程表の中身

150兆円の巨額投資が動き出す、GX実現へ業界別・工程表の中身

トヨタ初のEV専用車「bZ4X」

政府は2022年末、グリーン・トランスフォーメーション(GX、脱炭素への転換)実現に向けた基本方針を示し、今後10年の業界別の工程表を提示した。サプライチェーン(供給網)に属する中小企業にも脱炭素への道筋が鮮明となり、23年から官民合計150兆円の巨額投資が動き出す。23年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の議長国である日本は、産業界の脱炭素をめぐる議論を主導できる。(編集委員・松木喬、同・池田勝敏、孝志勇輔)

基本方針案 民間の予見可能性高める

GX実現に向けた基本方針案では、大規模投資に向けて民間企業の予見可能性を高める必要があるとして、GX投資が期待される22の分野について、新製品の導入目標や新たな規制・制度などを盛り込んだ「道行き」を提示した。

自動車産業の道行きでは、今後10年で約34兆円以上の投資を計画。電動乗用車・商用車の普及に必要な投資として計15兆円、次世代自動車の研究開発に約9兆円、電動車関連のインフラ投資と製造工程の脱炭素化でそれぞれ約1兆円と見積もった。規制・制度面からは、省エネ法トップランナー制度に基づく燃費・電費基準達成に向けた電動車の開発促進、改正省エネ法による輸送事業者や荷主の非化石エネルギー転換の促進を盛り込んだ。

二酸化炭素(CO2)排出量の多い鉄鋼、化学についても道行きを示した。鉄鋼では、水素還元製鉄や電炉活用など革新技術を早期に確立し、2030年の「グリーンスチール」1000万トン供給を目指す。化学では「カーボンニュートラルコンビナート」実現に向けた連携や、「グリーンケミカル市場」の早期確立、炭素循環・脱炭素型製造プロセス確立に向けた研究開発を盛り込んだ。

それぞれ今後10年間で3兆円以上の投資を見込む。鉄鋼、化学ともに、規制・制度面では、省エネ法の非化石エネルギー転換目標に基づく燃料や原料の転換促進を進める。

次世代燃料として有力な水素とアンモニアの普及に向け、今後10年間で大規模サプライチェーンの構築や拠点の整備を支援する。国内に水素とアンモニアを30年に合計300万トン導入するために、7兆円以上の投資を創出する方針だ。発電や運輸など幅広い分野で活用が見込まれており燃料転換を促進する。

アンモニア燃料船のイメージ(川崎汽船提供)

水素やアンモニアの製造から輸送、利用までの一連のサプライチェーンを構築する上で、コスト高に対応する必要がある。そのため供給事業者に対し、化石燃料との価格差に着目した補助制度などを設けて投資しやすい環境を整える。供給事業者がコスト回収と収益性を見通せるようにし、水素・アンモニア市場の形成につなげる。

また政府は30年までにCO2の回収・貯留(CCS)を事業化するための支援も進める。今後10年間で4兆円以上の投資が必要とみており、早期に法制度を整え、事業者のCCSへの参入を後押しする。

カーボンプライシング 排出削減促進で費用負担が軽減

水素還元製鉄の実現に向けた開発プロジェクトが進む(日本製鉄君津地区にある試験高炉)

化石燃料の輸入事業者からCO2排出量に応じて徴収する「炭素賦課金」を28年度から、一部の企業が排出枠を有償で買い取る「排出量取引」を33年度から導入する方針が決まった。炭素税と排出量取引はカーボンプライシング(CP、炭素の価格付け)と呼ばれ、排出削減に取り組むほど費用負担が軽くなる。政府内で1997年に議論が始まったが、産業界がコスト増を理由に反対してきた。2021年末、菅義偉首相(当時)が環境、経済産業の両省に検討を指示し、状況が一変。経産省主導で議論が進み、長年の論争に終止符が打たれた。

両省の議論に参加する早稲田大学の有村俊秀教授はCP導入を「価格メカニズムを使って効率よく脱炭素に向かい、結果的に日本経済の負担を減少させる」と評価する。また賦課金について、価格が変動して収入が不安定な排出量取引を補完する機能や、炭素税よりも導入手続きが簡素な点を評価した。

一方、有村教授は価格の目安がないことを課題とする。価格の見通しがあると企業は経営への影響を検討しやすいためだ。また、賦課金の導入と排出枠の有償化の時期を少し早めるように求める。「30年度の温室効果ガス46%削減(13年度比)という大きな目標に向けた促進効果は弱いと思う」からだ。

CP導入を訴えてきた企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップの石田建一顧問も導入決定を「前進」としつつ、「時間がかかるのは理解できるが、できれば導入を早める努力をしてほしい」とする。さらに「30年の目標達成を考えた時、既存技術が重要。CPは既存技術の普及を促す」とし、1トン当たり3000円の炭素価格を求める。コスト負担を避けたい企業が設備更新を急ぐため、省エネ技術を持つ企業にも商機が生まれるからだ。

国際動向 産業界の脱炭素化で協調

G7は22年12月、産業界の脱炭素化で国際協調する「気候クラブ」を設立した。新興国も含めた参加国は基準を作り、気候変動を抑制する技術への投資で足並みをそろえる。規制の厳しい自国企業が、ルールの緩い国の企業との競争で不利にならないようにする狙いがある。23年のG7議長国の日本はGXへの業界別の工程表をまとめたことで、気候クラブのルールづくりを主導できそうだ。

また官民合計で150兆円の投資額を示したことで、日本にも脱炭素の市場があることを世界に示した。バイデン米政権は8年間で2兆ドル(267兆円)を気候変動対策に充てるとし、22年には3690億ドルを再生可能エネルギーや電気自動車(EV)に投資する法案を成立させた。

欧州連合(EU)も10年間で官民1兆ユーロ(142兆円)の投資を表明している。150兆円の巨額投資を掲げた日本も海外から資金を呼び込み、国内産業を育成できる。

日刊工業新聞 2023年01月06日

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