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25枠に応募殺到か…「地域中核・特色大学」採択で問われること

25枠に応募殺到か…「地域中核・特色大学」採択で問われること

各大学は得意分野の磨き上げを図る(長崎大の感染症実験室、同大提供)

日本学術振興会は文部科学省が進める2023年度「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」の公募を始めた。応募大学は他大学との連携やスタートアップ創出、海外資金の獲得などにより、「このテーマならこの大学」と一目置かれる研究大学群の一員になることを目指す。24年度以降の分も含め、枠は計25件。同事業と連動している施設整備事業に応募した大学、さらに24年度は「国際卓越研究大学」に選ばれなかった大学からの応募も想定され、かなりの倍率となりそうだ。(編集委員・山本佳世子、飯田真美子)

採択は10年後の成果重視

地域中核・特色ある研究大学強化促進事業は資金使途の中心を人件費、それも研究者ではなくバックアップ専門人材の雇用に位置付ける。例えば次世代半導体に全学の資源を集中させると決めた大学の場合、海外大手企業との連携を交渉したり世界特許を押さえたりする専門人材を連携大学との共有資源として雇用。さらに自治体の支援も得て外部資金獲得を目指す―といった計画を想定する。中堅大学単独ではできなかった研究と経営の相乗効果を、連携によって実現することが期待される。

「(同事業で)支援する5年間を経て、10年後にどのような研究の成果(アウトカム)を出していくのかを問う。『今、頑張っています、過去の実績もあります』の延長線上の取り組みを求めているのではない」と文科省産業連携・地域振興課の担当者は強調する。

24年度の同事業には、国際卓越研究大学の審査で選ばれなかった大学が単独応募してくるとみられる。このため23年度の採択は25件を下回る見込みだ。公募締め切りは7月26日。採択大学決定は12月下旬の予定だ。

同事業と連動するとされている、産学官連携・共同研究の施設整備事業には、4月末に30大学が採択された。水循環の研究を進める信州大学や脳の付置研究所を持つ新潟大学といった特色がある大学が選ばれた。

採択された大学は強みを伸ばすための研究拠点を新設する。私立大学も数校選ばれた。立命館大学はスポーツ健康科学の研究拠点を設置し、没入感のある仮想空間を体験できる大型施設を取り入れる。立命館大の伊坂忠夫副学長は「長年研究してきたスポーツ健康科学を、企業などとともに発展させたい」と意気込む。

地域中核・特色ある研究大学強化促進事業にも採択されると、新たな施設で使う装置や備品をそろえることができる。長崎大学は感染症研究に特化した産学官連携施設を新設し、動物からヒト・動物への感染を調べる大型実験室を整備する。同事業に採択された場合、施設内のクリーンルームの設置や防具・備品の調達に活用する考えだ。長崎大の森田公一感染症研究出島特区長は「建物だけでなく設備までそろえることで、研究環境が整う」と強調する。

各大学は地域や企業と連携しながら、得意分野を世界レベルの研究拠点に引き上げる。

日刊工業新聞 2023年06月14日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
同事業は研究力強化で、国際研究卓越大学と両輪をなすといわれる。そのため、うっかりすると「大型の研究助成事業」と勘違いしてしまいそうだ。しかしそうではない。取材で確認できた「支援期間5年を経て、10年後に研究大学として成果を出していくために、同事業の経費は人件費、それも専門人材雇用など」という点は、心に置く必要がある。また施設整備事業での審査委員会の総評では、「深掘りした検討が必要な申請も多くあった」と釘を刺されている。これまでにない大型基金でのチャンスだけに、各大学にはズレた申請にならないよう意識して、取り組んでほしい。

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