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電気推進、自動運航…最新技術は内航海運の世界を一新できるか

電気推進、自動運航…最新技術は内航海運の世界を一新できるか

注目される、旭タンカーの電気推進タンカー「あさひ」

島国日本に欠かせない内航船。重量と輸送距離を掛け合わせたトンキロベースでは国内輸送の約4割を占める基幹的な物流手段だ。ところが内航船は、船員のなり手不足と高齢化、小規模な船主や運航会社が多く船の老朽化が進みがち、といった問題を抱える。そこで注目されるのが、電気推進や自動運航などの最新技術。こうした技術を搭載したピカピカの船は、内航海運の世界を一新できるか。(岡山支局長・清水信彦)

電気推進、参入相次ぐ

航続距離短く最適な活躍の場

時代の寵児(ちょうじ)として注目される蓄電池ベンチャー、パワーエックス(東京都港区)。中核的なビジネスである、蓄電池を積んで電気を運ぶ船の詳細が明らかになってきた。

パワーエックスが建造する電気運搬船「X」の完成予想図

1番船「X」は容積8000総トン、航続距離300キロメートルの内航船だ。本土から、送電インフラが弱い島しょ部などに電気を運ぶ用途を想定。96個のコンテナを搭載可能なコンテナ船で、コンテナに容量約24万キロワット時の蓄電池を格納する。

建造は同社への出資者でもある今治造船が担当。2025年に完成、26年には九州電力や横浜市港湾局と共同で実証実験への就航を予定する。モーターで動くピュア電気推進船であり、どんな推進システムを採用するのか気になるところだ。

このXのように、航続距離が短く充電できるタイミングの多い内航船は電気推進船にとって最適な活躍の場。

ピュア電気推進船で注目を集めたのが、旭タンカー(東京都千代田区)が22年と23年に就航させた「あさひ」と「あかり」、2隻の電気推進タンカーだ。ともに内航船でもっとも多い容積499総トン船。川崎港の給電ステーションを起点に、東京湾内での舶用重油燃料の運搬に当たる。

全体を企画したのはe5ラボ(東京都千代田区)。推進機やリチウムイオン電池などの駆動システムは川崎重工業が担当した。通常の船のように重厚なディーゼルエンジンは積まず、アジマススラスターと呼ぶ2基のプロペラがモーターで駆動する。騒音や振動を大幅に低減でき、乗組員の作業環境は大幅に改善する。ここに出力300キロワットのモーターを提供したのは大洋電機(東京都千代田区)。

一方、この大洋電機と、舶用モーターの分野でシェアを分け合ってきたのが西芝電機。ハイブリッド船を含め、舶用の電気推進システムでこれまでに94隻の受注実績を誇る。14年に完成した内航コンテナ初の電気推進船「ふたば」や、最近では5月に完成した洋上風力建設用の自己昇降式作業船(SEP船)「柏鶴」にも駆動モーターを提供している。

ほかの電機メーカー各社も商機とみて参入を急ぐ。東芝三菱電機産業システム(東京都中央区)は5月、内航船の駆動用途をにらんだ新しいモーターとインバーターを発表した。モーターは出力400キロワットで、永久磁石を使わない高効率モーター。インバーターは空冷から水冷化し、容積を4割強低減した。

富士電機も、19年に完成した電気推進フェリー「e―Oshima」に出力220キロワットのモーターや直流配電システムを提供。この実績をテコに、次世代の舶用モーターやインバーターを開発中だ。

自動運航実現へ

25年めど実現、操舵装置高度化競う

自動運航も、実用化すれば乗務員の業務を一新させると期待される。国土交通省は25年の実用化を掲げ、実証実験を進めてきた。

目的地に向けて自動で舵角を一定に保つ「オートパイロット」は、すでに多くの船で使われている。またこれを電子海図情報表示装置(ECDIS)と連動させ、海図の上に航路を表し、航路に修正をかけるトラックコントロールシステムの普及も進んでいる。

課題は、自動船舶識別装置(AIS)の搭載が義務化されていない漁船や、その時々に現れる障害物を実際に見て判断し、避ける技術。桟橋への離着桟も自動化が進んでいない領域だ。

自動運航の実現に向けてさらなる高度化が進む(東京計器の操舵装置)

東京計器とナブテスコは22年、次世代舶用システムの共同開発で合意した。それぞれ、操舵装置と舶用エンジンの制御装置のトップシェア企業。両社のシステムを融合させることで「舵と主機の最適制御を実現」。25年の自動運航実現に向けて、次世代の統合制御システムを開発するという。

東京計器に対抗し、内航船の操舵装置で3割強のシェアを持つのがYAMAX(広島県府中市)。今般発表した新型の操舵装置はIT化を進め、機器類の稼働データを取得してモニターに表示。保守点検の時期や取扱説明書も表示する。24年初頭には、陸上でもデータを取れるようネット接続機能を持たせる。

電子海図では提携先の戸高製作所(大分市)のシステムを採用しトラックコントロールも可能。その先の自動操船についても、着々と準備を進めている模様だ。

ミライの船「SIM―SHIP1」

離着桟簡素化 データ共有

SIM-SHIP1の操縦室。上にあるのが、ウインチなどのデータを一元表示できるモニター

内航船主や舶用機器メーカーなど約50社が加盟する一般社団法人内航ミライ研究会(愛媛県今治市)。最新技術を盛り込んだ内航船のコンセプトシップ「SIM―SHIP1」が5月に完成した。

容積499総トンのバラ積み船。エンジンは主機に阪神内燃機工業、補機にヤンマー製を搭載しこのクラスでは一般的だが、推進機の特徴はスラスターとバッテリーにある。

船を左右に動かすスラスターには、ナカシマプロペラ(岡山市東区)が内航船向けに新開発したジェット式を搭載した。ジェット水流の吐出口が360度回転するため、ジョイスティック1本で船を離着桟させる自動運航に向けて親和性が高い。

船内で使う電力の電源には、容量160キロワット時のリチウムイオン電池を搭載。停泊時に補機を動かさずとも8―10時間は電力をまかなえる。東芝の「SCiB」を採用。コンテナに入れて積み降ろししやすくし、陸上でも充電できる。

IT面でも進化した。ウインチやハッチカバーは油圧駆動が従来の主流。船員が側まで行ってレバーで操作する必要があった。SKウインチ(愛媛県今治市)が開発した電動の係船ウインチとハッチカバー駆動装置を採用し、ブリッジから操作できる。離着桟作業の簡素化につながる。これらの装置はセンサーを搭載しており、稼働状況をモニターに表示する。無線通信を通じ陸上からも船の状況を把握できる。

「見た目は普通の内航船だが、中身はまったく別物。現時点で使える実用的な技術を搭載できた。まずデータを見える化して陸上と共有化するというステップを踏み、その先は操船支援へとつながっている」(内航ミライ研究会)。SIM―SHIP1は、小規模な船主でも採用しやすい、現実的なソリューションが特徴のようだ。

船主は国喜商船(高知市)、建造は山中造船(愛媛県今治市)が担当、「国喜68」と命名された。川崎近海汽船が運航し、宮崎県と大阪府の間で木材を運ぶ航路に就航する。

日刊工業新聞 2023年06月09日

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