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日立と日本IBMの技術者交流、あえて協業などの「ゴール」を設定しない理由

日立と日本IBMの技術者交流、あえて協業などの「ゴール」を設定しない理由

日立の「協創の森」で行われたコンペ。同社と日本IBMの技術者12人で混合チームを作り、作成したAIモデルの性能を競い合った

競合他社との人材交流で技術を研さん―。日立製作所と日本IBMが各社の顧客のデジタル変革(DX)を推進する部門において、技術者同士の連携を進めている。このほど両社のデータサイエンティストによるコンペを行い、交流を深めた。あえて協業などの具体的なゴールを設定せず、技術者同士が可能な範囲で事例やノウハウなどを情報連携することで、人材の高度化やリテンション(引き留め)につなげる狙いがある。(狐塚真子)

「社会課題の解決に向け、データサイエンティストがより連携し、障壁を解消していく必要がある」―。日本IBMクライアント・エンジニアリング本部担当の村沢賢一執行役員は人材交流の意義をこう話す。同本部はIT・デジタル技術をテコにしたサービスやビジネスの共創を目的に、21年設立された。

一方の日立も、同社のIoT(モノのインターネット)技術基盤「ルマーダ」の事業拡大に向け、データサイエンティストなどを集約した組織のルマーダCoEを発足。顧客との協業を推進してきたが、「グループ内での地位向上や、人材の増強が課題」(吉田順ルマーダCoE兼日立デジタル担当本部長)となっていた。

社内のデジタル人材が集まり、顧客のDX支援を使命とする両組織は、22年から相互のサービスや事例紹介の取り組みを始めたが、競合関係でもあり、次の一手に手詰まり感があったという。「協業をゴールにしないことで参加者の心理的バリアーを下げ、自由な発想でのディスカッションを加速させる」(日立の吉田本部長)ため、技術交流の場として再出発した。

優勝チームのAIモデルについて、工夫した点などを参加者同士で質問し合った

3月には日立の中央研究所(東京都国分寺市)内の「協創の森」で、日立と日本IBMのデータサイエンティスト計12人を集めた合同コンペを実施した。4人1組で三つの合同チームを作り、浄水場へのサイバー攻撃を検知・判別する人工知能(AI)モデルの性能を競い合った。テーマは当日まで非公表で、参加者は必ずしも普段からサイバーセキュリティーを専門とする人材だけではないため、腕が試される形となった。

昨今、重要インフラへのサイバー攻撃などが相次ぐ中、いかに検知や影響評価を行えるかが重視されている。日本IBMの村沢執行役員は、「物理世界で収集されたデータを仮想世界に蓄積して、分析・予測・分類などを行い、物理世界で再び活用する取り組みは、日本で試行錯誤している段階。業界のスタンダードを作っていきたい」と意気込む。今後も脱炭素や自動運転といった切り口で日立との取り組みを継続していく考えだ。

両社は同施策が高度人材の引き留めにもつながるとみている。「データサイエンティストは引く手あまたの状態。『隣の芝は青い』と感じる技術者も少なくない」(日立の吉田本部長)。情報交換を通じて参加者に社内の魅力を再認識してもらうほか、会社としての改善活動にも結び付けていきたい考えだ。


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日刊工業新聞 2023年03月28日

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