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東大と金融庁が連携、ビッグデータ分析に経済学を融合させると何が分かる?

東大と金融庁が連携、ビッグデータ分析に経済学を融合させると何が分かる?

協定を締結した藤井東大総長(左)と中島金融庁長官

東京大学と金融庁は金融市場・行政における学術と実務の知見の蓄積や活用に関する基本協定を結んだ。市場取引のビッグデータ(大量データ)分析に経済学を融合。計算アルゴリズムに基づく自動発注など、新たな取引の価格形成の仕組みを解明する。また市場危機の予兆把握や、多様な資金調達手法について連携して研究する。

金融庁の膨大な生データを東大が持つ「データドリブン手法」などの知見を用いて解析し、公益に資する成果を引き出す。価格の乱高下やリーマン・ショックのような危機を解析し、予防につなげる期待もある。また利益目的でなく社会的効果を評価するインパクト投資など、新たな評価基準や多様化する資金調達手法に関する研究も、ベンチャーキャピタル(VC)などを加えて行う予定だ。

人材育成では、東大が同庁職員にデータ分析手法を高めるための教育を実施。同庁は東大の学生に金融リテラシー教育を行う。

会見で藤井輝夫東大総長は「本学の社会人向け講座で、病気発症の予測手法を金融に応用できることに受講者が気付き、今回の協定につながった」と披露。中島淳一金融庁長官は「インパクト投資など新たな資金調達手法の創出には、スタートアップ輩出で実績ある東大や実業界も巻き込んだオールジャパンで取り組みたい」と語った。

日刊工業新聞 2023年06月02日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
大学と他組織の協定はあまたあるが、府省庁の一つとの協定となると、そうはない。またきっかけは、東大が企業や官公庁の幹部向けに手がける、高額な社会人教育「エグゼクティブ・マネジメント・プログラム」。受講生が医療分野の高度なデータサイエンスを、金融市場に応用できるのではないかと具体的に考えた、というハイレベルな展開も、東大ならではだろう。特別感が漂うものの、”東大一人勝ち”の意識(他は関係ない、という冷たさ)ではないのがポイントだ。藤井東大総長は「公益に資する学術的知見を構築したい」とコメントし、「世界の公共性へ奉仕する東大に」という、同大の今の方向性をしっかりと示した。

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