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リユース品売買のバイセルが加速するDX。現場が成果を上げるデータ活用に必要なこと

リユース品売買のバイセルが加速するDX。現場が成果を上げるデータ活用に必要なこと

バイセル店舗では買取時に新システムを利用

きものや中古服飾品などリユース品の買取販売を行う「BUYSELL(バイセル)」を運営するBuySell Technologies(バイセルテクノロジーズ)。2022年3月より、リユース品の買い取りから販売までの業務に関わるシステムを一気通貫させ、データの連携を迅速かつ効率的に行えるよう、プラットフォームの開発を独自で行っている。リユース市場の拡大を追い風にM&A(合併・買収)を積極的に行っており、自社にあったシステムを構築・運用することで事業拡大を下支えする。(昆梓紗)

買取実績を蓄積・活用

同社は出張買取に強みを持っていたが、リユース品の店舗買取会社やtoB向けのオークションを行う企業を相次ぎM&Aし、事業の幅を広げてきた。これに伴い、チャネルの多様化に対応できるシステムがないことが課題として浮上。買い取りに関しては作業効率化ツールを利用していたものの、データ基盤が整備されておらず、適正価格の算出や分析などが行えなかった。

そこで21年より、ヤフーでエンジニアとして活躍し、その後ZOZOでCTOとしてDXを推進してきた今村雅幸氏を取締役CTOに据え、「バイセルリユースプラットフォームCosmos」の計画がスタートした。
 販売管理や在庫管理では既存のシステムが多く販売されているが、「当社では年間360万件以上の品物を売買し、カテゴリも約40種あり、莫大な物量を扱っています。また、買い取りから販売まで幅広いチャネルを持つことから、スピード感を持って現場のニーズを実現するためには、自社開発のシステムが必要だと考えました」(今村CTO)。

今村雅幸取締役CTO

22年秋にまず、店舗買取に関するシステム群をローンチした。
 買い取り時には、「商品特定の正確性」「現在の価格+価格推移が確認できるか」「(複数ブラウザを目視確認するなど)業務が煩雑/属人的すぎないか」「過去のデータが蓄積されるか」といった点が課題となっていた。これは業界全体でも同じ課題を持つ会社が多いという。
 「例えば、持ち込まれたバッグのブランドを検索して、似たような写真から型番や商品名を探し、流通価格を複数WEBサイトで確認してから買取価格を決める。これを1点ごとに繰り返す…といったことが行われている会社もありました」(今村CTO)。

新規開発したシステムでは、リユース品を商品マスタデータベースと照合し、これまでの買取実績を参考にしながら、市場価格も加味した比較検討が可能になる。これにより、担当者や店舗によっては査定ができず買い取れなかったリユース品も査定できるようになった。
 また、AIを取り入れた査定や顧客登録の自動化などにより、接客開始から契約までにかかる時間が40%削減された。さらに、オペレーションが簡便になったことにより、1カ月かかっていた研修は1日に短縮。データが見える化され、PDCAが回しやすくなったことから店舗別粗利も向上した。

現在、グループ直営店舗など49店に導入を進め、今後はグループフランチャイズ約200店舗にも拡大していく計画だ。
 「まず店舗買取システムからローンチしたのは、成果が分かりやすいからです。今後の全社DX推進の後押しになります」と今村CTOは話す。

来店から買取完了までを効率化

次にローンチを控えるのが在庫管理システムだ。1200万点以上(2023年4月26日時点)の商品在庫データ数を抱え、販売先もtoB、toC、それぞれのEC、店舗と多岐にわたる。在庫管理システムのローンチ後には販売管理システムの強化を予定しており、この連携により販路と価格の最適化が実現するという。最後に、出張買取向けのシステムをローンチし、23年中にはすべてのシステムが揃う計画で開発を進める。

Cosmos全体図

現場がデータを活用する環境づくり

買取から販売までのシステムが連動することでの大きなメリットは、全社でのデータの取得・分析・活用が可能になる点だ。このデータを現場の従業員が利用できるための環境づくりも並行して実施している。
 これまで散らばっていたデータを一カ所に集約し、必要な時にすぐに参照できるよう整備した。また、より深い分析がしたい場合であっても、データ分析の担当者に頼まず必要なデータを取得し分析できるよう、社内でSQL等のレクチャーを実施。現在100人ほどが必要なデータを扱えるようになったという。「これまで利用していなかったデータを活用することで成果が上がったという声が聞かれるようになり、積極的に取り組んでくれていると実感しています」(今村CTO)。

しかし、社内のシステムをほぼ一新し自社開発する大掛かりなDXに着手し、現場に理解してもらいつつデータ活用を強化するには、社内全体の理解が不可欠だ。DXに関わる企業はこの「人」の部分で躓くパターンが多い。
 「推進にはトップの理解と社内への発信がまず欠かせません。その上で、現場への説明をしていくのですが、『今よりは確実に良くなる』ことに加え、業務効率化だけではなく、『どういう世界を実現したいか』を共有することが必要」と今村CTOは強調する。
 同社は「テクノロジーの力でリユースの社会インフラになる」目標を掲げる。大きなビジョンを掲げつつ、成果を得やすいシステムから優先して導入することで実感が湧き、協力につながった。

リユース市場規模は10年以上成長を続けており、22年に3兆円、25年には3.5兆円まで伸長すると推定される(※1)。また、顕在化していない「かくれ資産(⾃宅内の⼀年以上利⽤されていない不⽤品の推定価値)」は総額44兆円に上るという推計もある(※2)。今後リユース品の流通量が増加する中で、同社のシステムプラットフォームおよびデータ活用の成果が一層表れてくることが予想される。

※1「リユース市場データブック2022」リサイクル通信
※2「リユース市場データブック2022」リサイクル通信、経済産業省「平成29 年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電⼦商取引に関する市場調査)」、ニッセイ基礎研究所監修平成30年11⽉7⽇付調査結果よりバイセルテクノロジー作成

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昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
リユース品は多種多様の品物が持ち込まれる上に、状態もさまざま。それらを鑑定する際には、経験や勘による部分も多いと言います。システム化によって、商品に紐づいて経験や勘もデータ化され、蓄積されていきます。これらは会社の貴重な資産になっていくと思います。

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