全固体電池の性能向上に生かす、TDKがAIデータ分析で短時間に新材料発見
TDKはデータをコンピューターで解析し新しい材料を生み出すマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の取り組みを加速する。独自の人工知能(AI)データ分析プラットフォーム(基盤)を開発し、4月から運用を開始した。社内に蓄積する技術を共有し、社員なら誰でも活用できるようにする。短い時間で優れた性能を持った新材料を発見・開発できる可能性が高まる。今後、全固体電池やフィルターなどの性能向上に生かしたい考えだ。
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プラットフォームの名称は「Aim(エイム)」。TDK社内で開発した。同社の従業員なら誰でも無料で使える。まず国内の研究部門で運用し、その後国内外の各拠点に展開予定。佐藤茂樹取締役常務執行役員技術・知財本部長は23日の会見で「材料技術はTDKの競争力の源泉。材料技術を究める上で非常に重要な取り組みだ」と期待を示した。
従来は電池や磁石など、それぞれの材料系ごとに技術者が別々に実験を行ってデータを収集。そのデータを解析し、課題解決を図っていた。4月以降、エイムを使い、AIが読み取れるような形でデータを収集して高度な解析を行い、材料開発に生かすことが可能になった。従来より早く、着実に開発が進められる環境が整う。
現状は各材料系のデータが共有されておらず、MIも一部の熟練者が対処している。今後は収集したデータを全社で共有し、解析ツールも開発して材料をよく知る技術者が自ら解析できるようにして運用の拡大につなげたい考え。
インタビュー・佐藤取締役常務執行役員
佐藤取締役常務執行役員にAI活用の戦略などを聞いた。(山田邦和)
―AIをどのように活用するのですか。
「材料開発の現場ではこれまで、技術者同士の議論や交流を通じて新たな発想や発見につなげていたが、時間の面でも扱えるデータ量の面でも限界があった。AIは大量のデータを効率的に有効活用できる。AIで得られた知見を分析することで技術者が気づいていなかった変化を捉え、材料特性の改善に役立てたり、新材料の開発につなげたりしたい」
―具体的にどのような製品で効果が期待できますか。
「一つは全固体電池の性能改善だ。電池は材料を合成した後に電池そのものを作る必要があるため、開発に時間がかかる。正極と電解質、負極の組み合わせで材料のパターンも膨大になる。AIの導入で解析の工数を従来比3割減らせるとみており、効果は大きい。電池容量を現在より数倍大きくしてボタン型リチウム電池と同水準に高め、ウエアラブルやモバイル機器にも適用分野を広げていきたい」
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