「もんじゅ」敷地に建設へ、新研究試験炉が果たす役割
廃炉措置が進む高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の敷地を活用した、新たな研究試験炉の建設に向けた取り組みが進んでいる。国内の多くの研究試験炉は数十年にわたり原子力人材の育成に貢献してきたが、経年劣化や新基準に対応できないことから廃炉の道をたどることを余儀なくされている。新試験研究炉は、国内の原子力発電を支える基盤の灯火を次世代へと確実につなぐ切り札となるか。(大阪・石宮由紀子)
「もんじゅの廃炉が決まり、がっかりしていた」―。京都大学、福井大学、日本原子力研究開発機構の協力協定がこのほど結ばれ、式典で上田孝典福井大学長はこう話した。福井県は複数の原子力発電所を抱えて「原発銀座」とも評され、福井大は国際原子力工学研究所(福井県敦賀市)を持つ。核燃料サイクルの役割を果たすとされたもんじゅへの期待も大きかったが1995年にナトリウム漏れ事故が発生。これを機に運転停止が続き、2016年に原子力関係閣僚会議はもんじゅの廃止措置を決定した。
敷地の有効活用策として試験研究炉の設置が浮上。20年に原子力機構や京大、福井大が中核的機関として採択された。また3者や地元自治体、産業界などのコンソーシアムを開設し、新試験研究炉設置に向けて用途などを多様な視点から検討することになった。
大学が新試験研究炉の設置を急ぐ背景には、原子力人材の育成と社会への供給についての課題認識がある。京大は、26年に複合原子力科学研究所(大阪府熊取町)が保有する研究用原子炉(KUR)1基の運転を終了する。海外人材を含め年間3000人を育成してきた経緯があり、切れ目なく原子力の研究開発を進めたい思いが強い。湊長博京大総長は、「日本は原子力に関わる人材を育成しており、やってきたことへの責任がある。我々には(果たすべき)義務がある」と強調する。KURで培った運営ノウハウを新研究試験炉で生かしていく方針だ。
新試験研究炉建設をめぐって今後、プロジェクトに関わる企業を選定。原子力人材の育成や中性子などの産業利用などコンソーシアムで揉んできたアイデアをもとに、プロジェクト選定企業と事業計画を調整する。24年度中にも、原子力機構が原子力規制庁に対して設置許可申請をする時期を提示するという。
旧規制基準下では設置認可申請から建設終了までの期間は高温工学試験研究炉が約8年、定常臨界実験装置は約7年。順調にプロジェクトが進行すれば、今後10年ほどで新試験研究炉が完成することも予想される。だが遅滞すれば人材育成に影響し、国内の原子力基盤の脆弱性は増す可能性がある。新試験研究炉の存在意義の理解を深めて行くことが喫緊の課題となりそうだ。