水素製造で威力、次世代原子炉「高温ガス炉」が注目される理由
日本原子力研究開発機構(JAEA)が開発する高温ガス炉によるコージェネレーション(熱電併給)システムが注目されている。国は安全・低コストで実現可能な次世代原子力発電の検討に乗り出しているが、高温の熱を利用して水素も製造できる高温ガス炉は水素利活用の本格化にも貢献できる。JAEAは試験炉での経験を踏まえ、実証炉の開発に乗り出している。(いわき・駒橋徐)
JAEAが大洗研究所(茨城県大洗町)に建設したHTTR(高温工学試験研究炉)は世界で初めて原子炉出口で950度Cの冷却材温度を達成。実用システムの原型となる実証炉の実現に向けた基盤技術の確立を進めている。高温ガス炉の燃料はウランを炭素、炭化ケイ素のセラミック材で4重被覆した直径約1ミリメートルの粒子燃料で、耐熱性が高く2000度Cまで壊れない。
燃料体や他の炉内で使用する黒鉛構造材は大熱容量、高熱伝導性を持ち、原子炉容器の外側に放熱して燃料を冷却可能。炉心溶融を起こさず、異常な放射性物質の放出もない。冷却材にヘリウムガスを使うため水素爆発も起こさないなど安全性が高く、小型原子炉として実用化が期待されている。
HTTR(出力3万キロワット)は連続50日の運転を実現し、熱供給炉として利用できることを実証した。冷却材の流量をゼロにする「炉心流量喪失試験」などで安全性も確認している。高温の熱を利用する水素製造実用化に向けた研究開発にも着手した。
水素製造プロセスではヨウ素(I)と硫黄(S)を利用する熱化学法のISプロセスの実用化を目指している。約900度Cで水を熱分解し水素を製造できる。ブンゼン反応(亜硫酸ガスと水とヨウ素の気液接触反応)でヨウ化水素と硫酸を生成。硫酸分解反応(硫酸溶液を濃縮・気化して熱分解)とヨウ化水素分解反応(ヨウ化水素溶液を濃縮・気化して熱分解)で水素を取り出す。この化学反応を結合し、熱効率40―50%を目標に研究開発を進め、毎時92リットルの水素製造に成功している。さらに化学反応をバランスさせて自動制御するシステムの確立を目指している。
JAEAでは2030年までに高温ガス炉を熱源とする水素製造技術を確立し、HTTRに水素製造設備を接続し水素製造を実証するプロジェクトも進行中。HTTRからヘリウムガスを新設の水素製造設備に供給する。まず天然ガスの水蒸気改質法を採用、将来的にはISプロセスの実証試験を目指す。
大洗研究所高温ガス炉研究開発センターの西原哲夫センター長は「高温ガス炉の最大の魅力はCO2フリー水素の大量製造が可能なこと。ゴールは水素製造と発電のコージェネシステム。水素製造システム実用化技術とガスタービン発電技術を確立しコージェネにつないでいきたい」と話す。英国は30年代初めに高温ガス炉の実証炉建設を計画、JAEAは同計画にも参画し英国の研究機関に協力する。40年代にはカーボンフリー水素を製造する安全で高効率な高温ガス炉システムの実現を狙う。