「次世代原子炉」実用化へ地ならしが始まった、今後の焦点は?

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安全性を高めた次世代原子炉の実用化に向けた地ならしが始まった。経済産業省は炉型ごとに運転までの工程表案を策定し、開発の司令塔を設ける方針を打ち出した。海外でも小型モジュール炉(SMR)などの開発が活発化し、日本は後れを取るわけにはいかない。一方で、原子力発電所の新設や建て替えは現在想定されておらず、世論の理解も必要で次世代炉を実現するハードルは高い。(孝志勇輔)

軽水炉重視、30年代に初号機建設

「“はしご”を一段ずつ上っていく」―。経産省の幹部は次世代炉の開発を前進させる意欲をにじませる。

経産省の作業部会が示した次世代炉の開発に関する骨子案では、社会実装を進めることでカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)やエネルギー安全保障のリスクに対応できるとした。電力の安定供給の懸念を払拭するには、火力発電や再生可能エネルギーとともに原発が必要。海外の動向も踏まえながら工程表案をまとめた。

経産省はデジタル技術などを生かした次世代軽水炉の実用化を重視する。大型軽水炉の建設で築いたサプライチェーン(供給網)を活用でき、「規制の予見性も高い」(京都大学複合原子力科学研究所の黒﨑健教授)。2030年代に商用炉の初号機の建設を目指しており、海外に主要機器を納入できる可能性もある。

ただ作業部会の委員からは「サプライチェーンを維持するには、工程表案で示した時間軸でも厳しいのではないか」との指摘も出た。東日本大震災以降、原発の建設計画がなく、サプライヤーの撤退が相次ぐ。原発の要素技術が失われてしまえば、開発がおぼつかなくなってしまう。

工程表案には30年以降に高温ガス炉の実証炉の建設、40年以降に高速炉の実証炉の建設・試験を目指す方針を示した。高速炉の実験炉「常陽」や原型炉「もんじゅ」を手がけた経験を生かせるとみている。

サプライチェーン、国際連携カギ

国際連携もカギといえそうだ。米国や英国などで両方の炉のサプライチェーンが確立されておらず、両国は日本との協力を志向しているという。海外市場の開拓もにらんだ技術開発が求められる。

経産省は次世代炉の実用化を後押しする体制も整える。民間の技術革新を喚起するために、骨子案に開発の司令塔機能を強化する計画を盛り込んだ。日本原子力研究開発機構(JAEA)が主体的に関与することを想定する。併せてシステム設計や発注を統括する中核企業も設定する方針。役割分担を明確化し、産業界の効果的な参画を見込む。

中長期のエネルギー政策をまとめた政府の「エネルギー基本計画」では、原発の新増設や建て替えが見送られたが、ここにきて風向きが変わりつつある。岸田文雄首相は脱炭素による経済成長を目指す「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、「原発の再稼働とその先の展開策など政治決断が求められる項目を明確に示してもらいたい」と述べた。

次世代炉も念頭に置いたとみられる発言で、東京電力福島第一原子力発電所の事故により事実上封印されてきた原発の議論の活発化が期待される。原発の活用に慎重な世論の理解を得られるように丁寧な説明が求められそうだ。

予算・支援策、今後の焦点

今後は次世代炉の開発予算の確保も焦点となる。資源エネルギー庁の最近20年間の予算額は、最大でも年間100億円程度。東日本大震災の発生以降は大幅に減少し、新規制基準への対応や廃炉に予算が割かれている。予算が限られてしまえば要素技術の開発や事業化調査にとどまらざるを得ない。

次世代炉の開発で資金面の支援が本格化している海外との差は大きい。米国の場合、政府支援を呼び水にSMRや高速炉などを手がける原子力ベンチャーの開発環境が整い、21年には民間の投資資金約3400億円が原子力ベンチャーに流入したという。

カーボンニュートラルの実現に向けて、再エネの導入拡大とともに原子力の重要性が増している。研究開発や人材育成、サプライチェーンの維持・強化のために実効性のある支援策が必要だ。

日刊工業新聞2022年8月15日

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