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経営の安定力高めるトヨタ、次世代領域投資へカギ握る「HV」

経営の安定力高めるトヨタ、次世代領域投資へカギ握る「HV」

トヨタのEV戦略本格化に伴い、今後はサプライチェーン全体で先行投資がかさむことになる(トヨタ自動車東日本の岩手工場)

トヨタ自動車が、経営の安定力を高めている。2023年3月期はトヨタと高級車ブランド「レクサス」の合計で、世界生産と販売台数のどちらも過去最高を達成。24年3月期も、収益に加え、生産や販売台数でも最高を更新する見通しだ。コロナ禍や半導体不足などの逆風を短期間ではね返す経営体質は、過去十数年間で進めてきた改革のたまものだ。この収益基盤を土台に投資を加速し、成果を刈り取ることが今後の大きなテーマだ。(編集委員・政年佐貴恵)

営業上振れ、地域別販売に磨き

「2兆7000億円の営業利益を確保できた。実力的には前期を上回る結果を示せたのではないか」。10日に会見した佐藤恒治トヨタ社長は、資材高騰や半導体不足といったマイナス要素があった上で、従来予想と比べ3000億円の上振れで着地した23年3月期の業績に手応えを示した。ダイハツ工業日野自動車を加えた連結販売台数は、全地域で増加。為替の円安効果が出た日本や、販売台数の伸びが大きかったアジア、その他地域が営業増益に貢献した。

トヨタの力の源泉となっているのが、1000万台規模という世界首位の販売基盤と、それを構成する各地域での販売力の強さだ。トヨタの販売で各地域が占める割合は約10―30%ずつで分散し、特定の地域に偏らず各地域が補い合う形になっている。佐藤社長は「グローバルに安定して収益を上げられる基盤が大切だ」とし、「顧客に選ばれる魅力の高い車を作って収益を上げることで、外部要因に対する耐性を強める」と説明する。

一方、国内生産は「モノづくり基盤の維持に必要」とする300万台を、3期連続で割る状況が続いている。佐藤社長は「日本のモノづくりを守る原点だ」と重視する姿勢を見せており、24年3月期はトヨタ・レクサスで前期比16・6%増の325万台とする見通しを掲げた。

300万台はあくまでも技術や雇用などを確保する目安の数字ではあるが、一定のボリュームがなければ技術力の高さなどでサプライチェーン(供給網)の要となっている中堅・中小企業の経営は立ちゆかなくなる。トヨタの電気自動車(EV)戦略の本格化に伴う先行投資と、足元の増産の両面に対応せねばならず、中堅・中小の負担は大きい。

説明する佐藤社長
タイ・バンコク市街を走るトヨタ車

トヨタはこうした仕入れ先への支援も強化している。23年3月期の資材高騰による1兆5400億円の営業減益要因のうち、5000億円を1次仕入れ先に対するエネルギー費用負担に充てた。24年3月期も5100億円の影響を見込むが、内4000億円程度を仕入れ先支援に充てる方針だ。23年4―9月期は一部で原価低減に伴う価格改定を見送ったことも合わせて、長田准執行役員は「(還元分を)いかに2次取引先以降にも広めていくかが課題だ」との認識を示す。

また24年3月期は、生産台数の増加や生産効率の向上、より低コストな新型車への切り替えといった原価改善効果で、過去最高レベルとなる3600億円の営業増益要因を見込む。宮崎洋一副社長は「EV投資に向けた原資の捻出に向けてやれることの一つは、1000万台規模での原価低減を進めることだ」と話す。

次世代領域に重点、HV拡販で投資原資確保

確固たる収益力を示すトヨタ。持続的成長に向けた次のテーマは、次世代領域への投資の加速だ。その原資を確保する上でカギを握るのはハイブリッド車(HV)。魅力を訴求し、市場成長が見込まれる新興国を中心に販売を積み増す考えだ。先行投資が重く収益化に時間がかかるEVに対し、利益の源泉と位置付ける。

すでに原資を次世代領域に重点的に振り向ける姿勢は鮮明だ。17年3月期は先行開発に振り向ける割合が人員で37%、研究開発費で24%だったが、23年3月期はそれぞれ53%、45%に引き上がった。30年に向けたEVへの投資額を1兆円積み上げる、といった迅速な判断ができるのも、収益体質の強靱(きょうじん)化を実現して十分な原資を確保した上で、投資先として次世代領域の優先度を上げたことの証左だ。

レクサスのEV専用車「RZ」

15日付けで発足するEVの専任組織「BEVファクトリー」も、その象徴。EVの開発から生産、販売、地域ごとのニーズ調査まで網羅的にカバーし、開発の仕方や発想も含めて既存のしがらみを断って事業を進める組織だ。中嶋裕樹福社長は、10月から11月にかけて開催される展示会「ジャパンモビリティショー」(東京モーターショーから名称を変更)で、26年に投入予定の次世代EVのコンセプトモデルを披露すると明らかにした上で「より先進性が求められる中国では開発の現地化を進めるなど、求められるものをスピーディーに提供できる体制を整える」と力を込める。

危機感を強める背景には、中国での急激なEVシフトの速さや、EVで自国生産の規制を強める米国の状況がある。宮崎洋一副社長は「上海モーターショーで見る景色は驚きだった」と、車内エンターテインメントなどニーズの変化をまざまざと感じたことを明かし「米国も含めてEVシフトの準備を進める」と断言する。

EV・水素軸に事業基盤さらに進化

トヨタは豊田章男会長が社長に就任した09年以降、収益体質の強化に向けた経営改革を実施してきた。商品の競争力を高める「もっといいクルマづくり」と、地域のニーズをくみ取り適した商品を展開する「町いちばん」の活動が主軸だ。同時に損益分岐台数の引き下げといった筋肉質な体質づくりも実施した。安定した収益基盤があるからこそ、地域の実情に合わせたパワートレーン(駆動装置)を投入する「全方位戦略」に取り組める。EVや水素市場が本格化していく25年以降に向け、強い事業基盤を継承し、さらに進化させることが最大のテーマだ。

日刊工業新聞 2023年05月11日

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