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日産「メタバース」・トヨタ「サブスク」…急拡大するクルマの“選択肢”、それぞれの販売戦略

日産「メタバース」・トヨタ「サブスク」…急拡大するクルマの“選択肢”、それぞれの販売戦略

日産のメタバース上の仮想店舗「ニッサン・ハイプ・ラボ」

自動車メーカーがデジタル技術、サブスクリプション(定額制)サービス、モータースポーツなどを通じて新車の販売手法に工夫を凝らしている。車業界では脱炭素に伴う電気自動車(EV)シフトで新規参入が増加。新車の選択肢も豊富になり、性能やブランドに対する消費者の好みにも変化が生まれている。多様化する需要にきめ細かく応える各社の取り組みを追った。

「潜在ニーズをくみ取るタッチポイントとして、メタバース(仮想空間)は機能できるのではないか」。日産自動車の山口稔彦部長は、これまで関わりがなかった消費者を含め顧客との接点を広げる一つのツールとして、メタバースの可能性に期待を寄せる。

同社は日産東京販売(東京都品川区)と、メタバース上で新車の相談や購入ができる仮想店舗(プラットフォーム)「ニッサン・ハイプ・ラボ」を3月に始め、6月30日まで実証実験に取り組む。

利用者はパソコンなどから入場してアバター(分身)を設定し、日産車やバーチャルスタッフが配置されたラボ内で見学や相談ができる。実際に購入を検討する場合、プライバシーの保護に配慮した別の仮想空間で、日産東京販売の営業スタッフが直接、相談、見積もり、電子契約などに対応。高精細な3次元(3D)シミュレーターによるリアルな車両、走行体験、資料などを基に、スタッフとイメージを共有しながら購買体験ができる。

日産によると日本では販売店への訪問は減少傾向で、インターネットを通じて比較検討してから購買のために来店する動きが多い。一方、もっと気軽に車を見たり、相談したりしたいとの潜在需要は根強い。ただ、来店後も売り込みをかけられることへの恐怖心などから、店舗への訪問をためらう動きも少なくないという。

メタバースは気兼ねなく訪問できるだけでなく、参加者同士で同じ空間を共有することも可能で、離れた場所に住む家族と一緒に車を選ぶといった使い方も想定される。山口部長は「店舗に行かなければ車を買えないといった制約をなくしたい」と意気込む。

トヨタ自動車は新型ハイブリッド車(HV)「プリウス」にサブスクリプションサービス専用グレード「U」を設けて1月に提供を始めた。販売後に車のソフトウエアだけでなくハードウエアもアップグレードすることを前提に、将来の車の残存価値を高く設定。サブスクの月額料金を従来より約1割下げ、利用しやすくした。

サブスクを提供する子会社のKINTO(キント、名古屋市西区)によると、1月の契約獲得数はプリウス効果もあり2019年のサービス開始以降で最高になったという。

トヨタ自動車とKINTOによる機能更新を前提とした新プランでは、車両装備の追加などをしやすい設計を取り入れた

Uでは「アップグレードレディ設計」と呼ばれる手法を取り入れ、カメラやセンサーの取り付け位置をあらかじめ確保するなど、後付けの作業性を高めた。後付けが可能な機能は死角を走る車を通知する「ブラインドスポットモニター」などで、23年央以降に順次拡大する。

車の機能を発売後も更新できるため、長期保有による資産価値の目減りを抑え、そのコスト軽減分をサブスクの料金に反映した。一方、安全機能などで技術開発のスピードは速まっており、消費者にとっては後付けで機能を更新することで、車両を買い替えずに最新技術の恩恵を受け続けることもできる。

KPMGジャパンが22年に日本の消費者を対象に実施した調査によるとサブスクを使いたいと回答したのは37%だった。年代別では20代以下が49%と最も多く、同社では「魅力的なサブスクのプランを提示できるかが若い世代から多くの支持を得られるかのカギとなるのではないか」とした。また販売のデジタル化については、オンラインで車を購入したいとの回答は25%にとどまった。オンライン販売への許容度はまだ低いが、これまで接点がなかった消費者を振り向かせるツールとして日産のメタバースが機能するか注目される。

三菱自動車は22年11月、技術支援する「チーム三菱ラリーアート」の国際ラリー大会「アジアクロスカントリーラリー(AXCR)」での総合優勝に沸き立った。同社が国際ラリー大会に本格的に参戦したのは13年ぶり。ピックアップトラック「トライトン」をベースにエンジンや足回りをチューニングした市販車に近い仕様で挑み、カンボジアやタイの荒れた未舗装路や大雨でぬかるんだ路面などを走破した。

三菱自はタイでモータスポーツを通じたイベントを開催した

この優勝の8カ月前、三菱自はAXCRへの参戦とともに三菱車の楽しさを発信していくと発表した。22年10月にはタイでモータースポーツを体感できる家族向けのイベントを開催。目玉はAXCRにも参戦するプロのドライバーとの試乗会で、三菱車の耐久性や運転性能を消費者に直接訴えた。タイ現地法人の小糸栄偉知社長は「三菱自らしさのDNAは三菱車を直接体験することで最もうまく説明できる」とし、同様のイベントを23年3月までタイ全土でほぼ毎月開いた。

小糸社長はタイ赴任前のインドネシアで、プロドライバーとの試乗会を通じたイベントを09年から展開。同国出身でAXCRにも参戦したドライバーのリファット・サンガー選手とは当時からの付き合いだ。この取り組みが浸透し、インドネシアではモータースポーツを通じたファンの獲得に成功している。タイでもサンガー選手らと共に同様の取り組みを展開し、モータースポーツによるブランドの確立を目指す。

デロイトトーマツグループが22年に24カ国の消費者を対象に行った調査では、車両購入の際のブランドの選択で最も重視する要因に「車の機能」を選んだ割合が最多だったのが東南アジアで52%に上った。4輪制御技術などにより、過酷な条件下でも壊れることなく走りきれる車両の開発は、三菱自の遺伝子として受け継がれてきた。加藤隆雄社長は「ほぼ量産車仕様のトライトンでAXCR優勝を勝ち取ったことも過去から積み上げてきた技術がベースになっている」と自信を示す。

KPMGインターナショナルによると今後4年間で160の新型EVが世界で投入される見込みで、50社超の新興メーカーが市場シェアを争っているという。消費者にとってはガソリン車を含め選択肢が急拡大しており、巧緻な販売戦略も成長を左右しそうだ。


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日刊工業新聞2023年5月5日

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