近年よく聞かれる「ウェルビーイング」、学部名にもなる理由
白内障の手術を受けた。視界の白濁といった不具合はなかったが、60代の6―7割で症状がみられるほど実は多いという。挿入する眼内レンズで近視矯正ができると知って驚いた。レンズが重く、眼鏡のかけ心地が安定しない煩わしさに長年悩んでおり、これが手術の決め手になった。
ただ患者は高齢者が大半で、現役世代を想定していない。「洗顔は1週間禁止」「手術が両目で終わるまで不同視(左右の視力の差が大きい)」など、職業人にはなかなか難しい。それでも最終的に手元のシニアグラスは必要だが、裸眼でアクティブに動けるようになって感激している。
当初、気になったのは「症状が軽いのに休みを多く取得して、周囲の理解が得られるだろうか」という点だった。そして後押し材料を探す中で、「ウェルビーイング」の考え方に行き当たった。
世界保健機関(WHO)憲章では「健康とは身体的、精神的、社会的すべてにおいて良好な(ウェル)状態(ビーイング)にあること」と定義されている。つまりウェルビーイングは狭義の健康に加え、幸せや幸福感、福祉までカバーする。
近年は研究開発プロジェクトなどでも散見されるようになった言葉だ。特定の病気を治療する医療の先、新たな社会ニーズの広がりを感じる。また実現に向けた人材を育成するため、武蔵野大学は2024年度に日本で初めてとなる「ウェルビーイング学部」設置を計画している。
注目したいのは「個人」と「社会」という通常なら対立する概念を同時に扱い、ともに大切にする点だ。私も手術を経て個人のウェルビーイングがより良くなったことに感謝して、職業人として社会のウェルビーイングに貢献しようと思う。
日刊工業新聞 2023年04月24日