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「究極のオーダーメード治療」実現か、制御性T細胞の可能性

「究極のオーダーメード治療」実現か、制御性T細胞の可能性

病気の患者から採取したリンパ球を、病気の原因となる部分を取り除いて利用する治療法の開発を目指す

炎症性サイトカインに着目した研究が現在、免疫学のメインストリームにある。このなかで特定の疾患に対して細胞面からアプローチする大阪大学の坂口志文特任教授らが発見した「制御性T細胞(Tレグ)」は、異質にあると言える。ただ細胞は、生きた薬剤になりうる。Tレグの機能を応用することで、高い治療効果が得られるほか身体への負担がより抑えられた「究極のオーダーメード治療」の実現に期待ができる。(大阪・石宮由紀子)

Tレグは病原菌の抗原などを特異的に認識し、反応する免疫細胞「T細胞」の一種。自己の抗原に対する異常かつ過剰な免疫応答を制御し、尋常性天疱瘡(てんぽうそう)などの自己免疫病やアレルギーを抑える働きを持つ。Tレグの量や活性を減少させれば、がん免疫が引き起こされることなどがわかっている。さらにTレグが増加すれば、暴走する自己免疫を抑えられる。

「私たちが研究するのは、サイトカインではなくて細胞そのもの」と坂口特任教授は研究の主軸を説明する。坂口特任教授の研究室のほど近くには、炎症を引き起こす物質「インターロイキン―6(IL―6)」を発見した岸本忠三阪大特任教授ら免疫学の世界的権威が研究室を構える。「岸本先生の分野は競争が激しい。こちらはニッチな分野なため、のびのびと研究ができた」(坂口特任教授)と振り返る。

ただ他の研究者による類似した先行研究の失敗が引き金となり、85年にTレグの端緒となる論文を発表した当初は異端視されていた。評価を受けるまでには時間がかかったが、潮目が95年に変わった。Tレグに特異的になる分子マーカー「CD25」を発見した。米免疫学界の大御所イーサン・シェバックなど世界中の研究者が論文を追試。再現性が確認され、「Tレグへの評価が高まってきた」(坂口特任教授)という。

坂口特任教授らの目標は、Tレグを活用したオーダーメード医療の確立だ。患者のリンパ球を取り出し、試験管内で疾患の要因となる部分のみを除去。健康なリンパ球に変えたうえで、患者の体内に戻していく。患者由来のリンパ球を使うことで安全性は担保され、身体的な負担が少なくすむ。基礎研究もさらに深化させており19年、病気を起こすT細胞をTレグへと効率的に誘導する化合物についてもみいだした。

さらに22年、坂口特任教授や田中淳特任准教授らの研究チームは自己免疫疾患を自然発症する異常シグナル帯域を発見。T細胞が抗原を認識し、反応するための分子であるT細胞受容体(TCR)のシグナルを伝えるキナーゼ分子「ZAP―70分子」の発現量がカギとなった。同分子を8分の1―15分の1程度減弱することで、自己免疫疾患が自然発症するのをマウスによる実験を通じて明らかにした。

Tレグの詳細な機序や働きを解明し、機能を強化することで理想とする医療の確立に一歩ずつ着実に進めている。これに合わせて坂口特任教授は16年、その社会実装の受け皿となるベンチャー「レグセル」を大阪府吹田市に創設した。製薬企業やベンチャーキャピタルから資金調達し、事業を展開している。

日刊工業新聞 2023年04月03日

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