「量子コンピューター」実用化飛躍的に早める、富士通と阪大が新設計概念を確立した意義
富士通と大阪大学量子情報・量子生命研究センターは、量子エラー訂正に必要な物理量子ビット(物理構成)数を大幅に低減することで、本格的な量子コンピューターの実用化を飛躍的に早める新たな量子計算アーキテクチャー(設計概念)を確立した。1万程度の物理量子ビット数でも高精度な量子エラー訂正機能を備え、現行コンピューターの最高性能の約十万倍に相当する64論理量子ビットの量子コンピューター構築への道を開いた。(編集委員・斉藤実)
新アーキテクチャーでは、基本となる量子ゲートセットを新たに定義し、特に大量の物理量子ビットと量子ゲート操作を高効率で実行する新開発の「位相回転ゲート」を世界で初めて導入する。
今回、富士通と阪大は基本論理ゲートを代替する手法を開発。物理量子ビットを従来の10分の1以下に低減するとともに、任意回転の実行にかかるゲート操作回数を従来の20分の1程度に低減するなど、量子エラーの発生を大幅に抑えられることを確認した。
具体的には、大量の物理量子ビットを使用して量子ならではの計算を行う「論理Tゲート」操作を繰り返す従来アーキテクチャーとは異なり、任意の角度を直接指定して位相回転するゲート操作を実行。量子エラー確率は物理量子ビットでの量子エラー確率の約8分の1まで抑え込めることが確認できたという。
従来のFTQCアーキテクチャーでは、CNOT、H、S、Tという四つの基本量子ゲートそれぞれに対して量子エラーを訂正し、それらの基本量子ゲートを組み合わせることで、あらゆる量子計算を量子エラーの影響なく実行する。量子エラー訂正に大量の物理量子ビットが必要になるため、100万以上の物理量子ビットを持つ量子コンピューターでなければ実用化が困難とされている。
そのため、物理量子ビット数が1万程度に到達した段階で量子エラー訂正を実行しても計算可能な規模は極めて小さく、現行のコンピューターの処理能力を超えることは不可能と考えられていた。
現在、量子コンピューターの開発競争は「NISQ」と呼ぶ、ノイズによるエラーが生じる中小規模の量子コンピューターが中心。これに対し、量子ビット数を数万個に増やし、「FTQC」と呼ぶエラー訂正機能を備えた大規模な量子コンピューターを実用化することが将来目標となっている。
23日に都内で行った会見で阪大の藤井啓祐量子情報・量子生命研究センター副センター長は、「新アーキテクチャーはNISQとFTQCの中間を埋める『Early―FTQC』と呼ぶ、新しい概念だ」と強調。その上で「第3の選択肢を示したことで、この分野の研究が盛んになり、アプリケーションが増えることを期待する」と展望した。
富士通の佐藤信太郎量子研究所長は、「新アーキテクチャーは超伝導方式が対象。まずは理化学研究所と当社が共同開発している量子コンピューターへの実装を目指す」と述べた。
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