ニュースイッチ

「ゼロから育て、形にする」イビデン社長の経営哲学

「ゼロから育て、形にする」イビデン社長の経営哲学

青木 武志社長(同社公式サイトより)

イビデンデータセンター用ICパッケージで世界首位だ。2022年度は河間事業場(岐阜県大垣市)の新工場棟や新工場「大野事業場」(同大野町)の建設に着手した。果敢な投資に「アクセルを踏み続ける」と青木武志社長。「お客さまのデファクトスタンダード(事実上の標準)となり、期待を越える提案をする」と説く。

入社後、新規事業だったセラミックスの開発に従事し、用途や顧客も自ら開拓した。知らない工場を見つけると「何か用途はないですか」と飛び込み、「製鉄大手から仏壇屋さんまでありとあらゆる業種を訪ねた」。黎明(れいめい)期ゆえのクレームへの対応も数知れず。「ゼロから育て、形にする仕事は無上の喜び」というルーツがここにある。

「いろんな人に助けられた」とも思う。30歳の頃の上司には毎週金曜日に2、3時間、面談を受けた。目先の開発課題にとらわれる中、事業の将来像やリスクなど経営的視点で質問が来る。答えられずまた翌週。「未来を見据えて考えるようになった」と振り返る。

30代半ばには自動車用の触媒シール材を開発した。上司だった岩田義文元社長から海外市場開拓を指示された。「売り込みで海外を転々とし、日本に帰ると岩田さんに『なぜいる』と叱られた」と苦笑する。経験と人脈は後の粒子状物質減少装置(DPF)の市場開拓などにも生きた。

長年親交があった大手顧客の元常務は、一つ上の役職に登るための「足りないところ」を指摘してくれた。「外国人でもマインドは同じ」との教えもこの人だ。そして「日本でも海外でも、最終的には人間味のつながり」と実感している。英国では得意先が「お前のはひどい」と本場のドレスコードを教えてくれた。「心許せる関係だからこそ」だ。

イビデンの歴史は新事業の歴史だ。1906年に水力発電で創業。電力を生かしカーバイドや炭素製品、メラミン化粧板などを事業化。その派生でプリント基板やセラミックス製品も開発した。「根っこがつながった事業」を育てた歴史だ。

ただし、どの技術がどこで役立つかはわからない。だからこそ「ガラクタ箱でも人によっては宝の山。とことん追求するべきだ」と強調する。そして「昨日より今日。1ミリでも良いから進化しよう」と訴える。経営者として大切に思うことは「好奇心と謙虚さ」。取り組むのは「モノの提供ではなく、お客さまに最適なアズアサービスの提案」だ。(編集委員・村国哲也)

【略歴】あおき・たけし 81年(昭56)関西大工卒、同年揖斐川電気工業(現イビデン)入社。08年執行役員、13年取締役執行役員、14年取締役常務執行役員、16年副社長、17年社長。岐阜県出身、65歳。

日刊工業新聞 2023年02月28日

編集部のおすすめ