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国産ウイスキー「富士」「陸」攻勢、キリンビールの勝算

国産ウイスキー「富士」「陸」攻勢、キリンビールの勝算

キリンビールは国産ウイスキーの販売を拡大する

キリンビールは2023年に国産ウイスキーの主力ブランド「富士」と「陸」の販売を強化し、売上高で前年比8%増の43億円を目指す。富士は従来のグレーンモルトウイスキーに加え、シングルモルトウイスキーを発売するほか、富士御殿場蒸溜所の50周年に伴う記念商品などを投入。富士は23年に欧州向けに市場を拡大するなど輸出を強化し、30年に21年比10倍の40億円に売上高を拡大する。(高屋優理)

堀口英樹キリンビール社長は国産ウイスキー事業を「10年先のキリンビールを支える事業」と述べ、酒類事業の中でも持続的成長が見込めるカテゴリーと位置付けた。海外で国産ウイスキーの人気が高まる中、農林水産省によると22年のウイスキーの輸出額は前年比21・5%増の560億円。輸出金額は17年連続で伸びている。

キリンビールは国産ウイスキーブランドとして富士と陸の2ブランドを展開しており、富士は海外を中心に販路を広げている。現在、フランス、米国、豪州、中国、シンガポールに展開。23年は米国で展開する州を広げるほか、欧州にも展開する国を増やす方針だ。富士は国産ウイスキー人気の波に乗って順調に輸出を拡大しており、キリンでは30年の目標である40億円のうち、35億円は海外の売り上げが占めるとみている。

富士は新商品も投入し、拡販を強化する。5月16日には「シングルモルトジャパニーズウイスキー富士」を発売。同商品は通年販売で消費税込みの価格は700ミリリットルで6600円。キリンの富士御殿場蒸溜所は大麦から作る「モルト」、大麦以外の穀物から作る「グレーン」の両方のウイスキー原酒を醸造できる世界でもまれな蒸溜所だ。富士に従来のグレーンに加え、モルトを加えることで、蒸溜所の特徴を商品に反映する。

また、5月23日には富士御殿場蒸溜所50周年の記念商品を3000本の数量限定で発売する。蒸溜所が操業した73年に蒸留した原酒をはじめ、各年代に蒸留した原酒を使用する。国産ウイスキーは深刻な原酒不足にある中、貴重な長期熟成原酒を使用することで、甘く複雑な熟成香を実現する。消費税込みの価格は同2万1780円。

国内市場が中心の陸は、22年4月にリニューアルし、マーケティングを強化したことで、前年比96%増の15億円と売り上げが大幅に伸長した。23年はパッケージをリニューアルし、広告宣伝を強化。売り上げを前年比52%増の23億円と大きく伸ばす。

キリンは国産ウイスキーの市場拡大を受け、21年に富士御殿場蒸溜所に約80億円の設備投資を実施し、生産体制を強化した。樽熟成庫を2割増強したほか、発酵、蒸留設備の新規導入など増産体制を整えており、生産量も徐々に伸びつつある。23年は御殿場市とも連携し、御殿場駅に蒸留器を設置したり、御殿場プレミアム・アウトレットに期間限定ショップを開設するなど、蒸溜所をアピールする取り組みも強化する。

日刊工業新聞 2023年03月22日

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