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《加藤百合子の農業ロボット元年#06》この仕事で改めて見てきたこと

行政の研究体制と安全の仕組みづくりについて考えみた
 農業ロボットに携わるといろいろなことが見えてくる。その一つが、行政の研究体制についてである。国には農研機構という農林水産省と連動して研究を進めている機関が、各都道府県にも行政やJAと連携した研究機関がある。実はこれらで研究開発されているものが、あまり現場に導入されていないことに驚愕している。

実用化されてこそ


 確かに研究機関なので、長期的な視野での研究や民間ができないチャレンジングな課題を対象としているということの裏返しでもあるのだが、ことシステムや機械に関しては民間企業に託した方がいいのではと思わざるを得ない。

 つい最近、静岡県磐田市でスズキや地域企業の協力を得て農工でのオープンイノベーションをスタートした。静岡近辺の農業系、工業系の企業が数社集まり、静岡県庁や農業者からの課題について検討したところ、仕様が定まれば形にするのは2―3カ月ですぐできるとのこと。世界と闘うために培ってきた先端技術や汎用化された部品が使えるため、おそらくコストもそれなりに抑えられると思われる。

 一方、前述の研究機関では、研究者が仕様から機械設計まで行う。日々それを業務としていないため、民間と比較して時間はかかるし、モノづくりの連携体制を持っているわけではないため製作物は出戻りも多くなりがちで高価になる。結果として、品質が安定せずに、仕様に明記した機能が実現できないということに陥りやすい。

中立的な施策


 この一件をとっても、行政と民間の役割をいま一度検討し直す時期にきているのではないかと痛感している。例えば、安全についての情報収集やガイドラインの制定。これは完全に非競争領域であり、農業ロボットを取り扱う民間企業にとっては安心して販売するための、そして、生産者も安心して購買するための基盤となる。これについては中立的な立場で、行政が音頭をとるべきである。

 また、今回の農業ロボット元年のように、人手不足解消と生産性向上の課題が浮き彫りとなり、それらを解決するために社会を先導する場合も、行政からの中立的な施策は功を奏する。

 農林水産省が先導した農業ロボット事業では、大学のシーズが花開きそうであるし、農業ロボットコンテストで若い人たちに農業に関わる意義を理解してもらい、研究意欲を高めてもらえたことは先導的役割を果たしたと言える。

 実際の開発については民間に任せ、企業が世界と闘う支援となるような国内外の基盤づくりや調整役を行政の役割とすればいいのではと思っている。

<次のページは、「事故を減らすため“PDCA”の運用徹底を」>

日刊工業新聞2016年1月27日/2月10日 ロボット面
加藤百合子
加藤百合子 Kato Yuriko エムスクエア・ラボ 代表
安全のコストは使う側の理解も必要です。農業が憧れられる仕事になるためには、業界全体で安全に対する意識改革が必要です。

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