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芝浦工大が工学部を改組、大規模な「課程制」設計の狙いを聞いた

分野横断の学び、より重要に

日本の工学教育は専門の深掘りが伝統だが、近年は新産業創出や社会課題解決につながる分野横断の学びがより重要になっている。芝浦工業大学は2024年度に学内最大の工学部を改組し、9学科を5課程9コースへ転換する。1学年約1000人、教員約150人での大規模な課程制を設計した狙いを、苅谷義治理事・工学部長に聞いた。

―課程名は機械、電気電子、情報など従来の学科と同様です。何が違うのですか。

「学科制は、教員も学生も学科に所属し、他学科と関わらない閉じたカリキュラムで、工学の中で専門を究めるには適した形だ。これに対して課程制では、教員はひとまとまりに工学部所属となり、学生は課程の下のコースに所属する。教員はどの課程・コースの授業も担当できる。学生は他コースの授業が受けられ、横断的な学びが可能になる」

―背景に、社会が工学に求める形が変わってきたことがあるのですね。

「例えば自動車産業は機械が中心だったが、近年は電気自動車(EV)など電気、情報、材料や化学などを統合した産業になってきた。社会課題を解決するには一つの専門だけでなく、周辺の知識や技術を使う必要がある。建学の精神である“社会と一体になった技術者養成”を考えると、課程制がふさわしい」

苅谷義治理事・工学部長

―低学年の学びでは、どのような工夫をされたのですか。

「1年次でまず、自分に合ったカリキュラムを考えるため、自他のコースが社会の中でどのような位置にあるかを理解する。2年次には他コースから選んだ10の研究室の研究内容の概要を学ぶ」

―卒業研究の研究室配属も3年次に前倒しします。

「通常は4年次に行われるが、実践的な研究に早く着手することで、学生は他分野とのつながりや重要性に気づく。そこで3、4年次に活用してもらうのが『学内研究留学』だ。これは文化の異なる別コースの研究室に半年間、出向いての実習だ。雰囲気の異なる指導教員や先輩による刺激やネットワークが得られる。学部4年間の特色ある教育により、優れた技術者を社会に送り出せる」

―学生により向き不向きがありそうです。

「学内研究留学と講義で12単位となる科目群を各コースで用意し、関心のある他コースの学生が『副コース』としてこれを選ぶ仕組みだ。従来型の深掘りによる自コースだけ、多くのコースで数単位ずつの学びも可能だ。学生が目指す技術者像に合わせて柔軟に設計していく」

【記者の目/現場の働き方改革も】

教育改革に伴う現場の教職員の負担増が気になるところだ。しかし小規模な縦割りの学科制で重複していた業務が、課程制で合理化される面もあるという。「これを機に会議の削減など働き方改革も進める」と、苅谷学部長は次のステージに向けた旗を振り始めた。(編集委員・山本佳世子)

【略歴】かりや・よしはる 92年(平4)芝浦工大院理工学研究科修士修了、同年住友重機械工業入社。99年芝浦工大院博士課程修了。02年物質・材料研究機構。06年芝浦工大工助教授、13年教授、21年より現職。東京都出身、55歳。
日刊工業新聞 2023年02月09日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
工学系において、縦割りをなくす”大括り(おおぐくり)化”や、4年+修士2年を合わせた”6年一貫教育”への転換は、近年の文科省の後押しが背景にある。従来の学科制でも、例えば工学部の中の10学科を、1学科9コースに再編するといった形が、17年あたりから国立大で複数、出ている。ただ、受験生はともかく一般にはあまり知られていない。コースに各分野が生き残っていることから「なんちゃって再編」のように見え、本質的なところが伝わりにくい気がする。受験生向けに限らない、社会とのしっかりとしたコミュニケーションを望みたい。

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