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7月5日は「工具の日」。知っておきたいエンドミルの基礎知識

おすすめ本の抜粋「目で見てわかるエンドミルの選び方・使い方」
7月5日は切削工具の日。「切」の字に入る7の字と、工具の「工」から連想した5の数字を合わせて制定されました。機械加工を支える切削工具には様々な種類があり、その使い分けを知ることはとても重要です。今回は、エンドミルの使いこなしがわかる一冊、「目で見てわかるエンドミルの選び方・使い方」から一部を抜粋して紹介します。

図1~4に、刃数が一枚、二枚、三枚、四枚のエンドミルを側面から見た様子と端面(底刃)から見た様子を示します。JIS B 0172では、刃数が1枚のものを「一枚刃エンドミル」、刃数が2枚のものを「二枚刃エンドミル」、刃数が3枚のものを「三枚刃エンドミル」、そして、刃数が3枚以上のものを「多刃エンドミル」と定義しています。

図1 一枚刃エンドミル(側面から見た図)
図2 一枚刃エンドミル(端面から見た図)
図3 刃数が二枚、三枚、四枚のエンドミル(側面から見た図)
図4 刃数が二枚、三枚、四枚のエンドミル(端面から見た図)

図5に、刃数が、二枚、三枚、四枚、六枚のエンドミルを端面(底刃側)から見た模式図を示します。図に示すように、エンドミルは刃数によって断面積が異なります。たとえば、エンドミルの外周に沿う仮想的な円に対する断面積の割合は、二枚刃では約50%、三枚刃では約55%、四枚刃では約60%、六枚刃では約64%となります。 つまり、刃数が少ないほど断面積は小さく、曲げ剛性が低く(曲がりやすく)なる一方、刃数が多くなるほど断面積は大きく、曲げ剛性が高く(曲がり難く)なります。したがって、半径方向の切込み深さが大きく、切削抵抗が大きい場合に刃数が少ないエンドミルを使用(選択)すると、切削抵抗によってエンドミルが曲がり、仕上げ面粗さや寸法精度が悪くなってしまいます。したがって、エンドミルが曲がり難いという観点では、刃数の多い(断面積の大きな)エンドミルを選択することが重要といえます。ただし、注意が必要です!

図5 エンドミルを端面(底刃側)から見た模式図

切削時に発生する切りくずに注目して考えます。切りくずは、エンドミルのチップポケット(溝)によって収容・排出されるため、切込み深さが大きく、切りくずが多く発生する場合、「切りくずの排出性」という観点では、チップポケット(溝)が大きい方が有利といえます。チップポケットが小さい場合には、切削中、切りくずがチップポケットに詰まり、エンドミルの破損の原因になります。

エンドミルのチップポケット(溝)の大きさは、便宜上、エンドミルの外周に沿う仮想的な円からエンドミルの断面積を引いた面積で計算でき、チップポケット(溝)は刃数が少ないほど大きくなり、刃数が多くなるほど小さくなります。すなわち、「エンドミルの断面積」と「チップポケット(溝)の大きさ」は相反する関係にあり、エンドミルを選択する際には、「エンドミルの剛性(曲げ強さ)」と「切りくずの排出性」の両方を考慮する必要があります。

 以上を総括すると、「荒加工」では、高能率に加工する(切りくずをバリバリ出す)ことが重視される一方、仕上げ面粗さや寸法精度がいくぶん悪くなってもよいので、「曲げ剛性」よりも「切りくずの排出性」を優先して、刃数の少ないエンドミルを選択します。一方、「仕上げ加工」では、加工能率よりも仕上げ面粗さや寸法精度を重視するので、「切りくずの排出性」よりも「曲げ剛性」を優先して、刃数の多いエンドミルを選択します。

ただし、図6に示すように、切りくずの排出性が特に悪い溝加工では、「仕上げ加工」でも切りくずの排出性を優先して、チップポケットの大きい(刃数が少ない)エンドミルを選択するのが良い場合もあります。

図6 二枚刃と四枚刃の選択指針の一例

一方、切りくずの排出が比較的容易な側面削りでは、「荒加工」でも加工精度を優先して曲げ剛性の高い(刃数の多い)エンドミルを選択する場合もあります。

図7~8に、刃数が六枚と十枚のエンドミルを示します。また、図9に、刃数がきわめて多い特殊なエンドミルの端面を示します。刃数が多くなると、切削に寄与する切れ刃が多くなるので高能率に加工できる反面、切れ刃と工作物の接触長さも増えるため切削抵抗が大きくなりやすいので注意が必要です。

図7 刃数が六枚と十枚のエンドミル(側面から見た図)
図8 刃数が六枚と十枚のエンドミル(端面から見た図)
図9 刃数が多い特殊なエンドミルの端面
参考図 八枚刃のエンドミルを使用した側面削りの様子

(「目で見てわかるエンドミルの選び方・使い方」p.18-23より抜粋)

本作は、豊富な写真を使いながら解説する「目で見てわかる」シリーズの一つです。シリーズタイトルには切削バイトやエンドミル、ドリルなどのほか、旋盤やNC機、さらには配管やはんだなど、ノウハウの必要なテーマをさまざま揃えています。
<シリーズ一覧はこちら>

<書籍紹介>
多種多様なエンドミルの特性や加工メカニズムを解説し、加工に合わせたエンドミルの選び方がわかる一冊です。豊富な写真を使いながら解説しているため、用途に合わせたエンドミルの使い方に理解が深まります。
書名:目で見てわかるエンドミルの選び方・使い方
著者名:澤武一
判型:A5判
総頁数:144頁
税込み価格:1,760円

<販売サイト>
Amazon
Rakuten ブックス
日刊工業新聞ブックストア

<著者>
澤武一(さわ たけかず)
芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 教授
博士(工学)、テックマイスター、ものづくりマイスター
1級技能士(機械加工職種、機械保全職種)

<目次(一部抜粋)>
第1章 エンドミルの種類と特徴
エンドミルとは?/エンドミルの構造による分類/刃数による分類/底刃形状による分類/右ねじれ刃と左ねじれ刃/刃部の材質による分類 など
第2章 切削条件の決め方と考え方
切削条件とは/主軸回転数の決め方と切削速度の関係/送り速度の考え方と決め方/切込み深さの考え方と決め方 など
第3章 知っておくべき切削特性
エンドミルに作用する切削トルクと切削抵抗/上向き削りと下向き削り(アップカットとダウンカット)/エンゲージ角とディスエンゲージ角 など

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