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輸送障害を迅速に復旧、JR東日本が決めたAIの生かし方

輸送障害を迅速に復旧、JR東日本が決めたAIの生かし方

今年度中に山手線駅など在来線の首都圏線区へシステムを導入する(イメージ)

輸送障害はいったん発生すれば時間とともに列車運行に与える影響が広がり、遅延の影響を受ける利用者の数も増えていく。このため障害状況の把握と復旧は一刻を争う作業になる。JR東日本では、人工知能(AI)によって自然災害や設備故障に伴う輸送障害の原因特定や復旧を支援するシステムを2022年度中に導入することを決めた。AIの支援で復旧に必要な時間が大幅に減る可能性がある。

「信号設備の(機器の)量が非常に多いということもあり、原因特定まで時間のかかるケースもある」―。JR東の深沢祐二社長はAI導入の背景をこう説明する。シミュレーションでは、通常は復旧に約2時間必要だった障害に対し、AIなら1時間程度まで復旧時間を短縮することができた。22年度内に山手線を含む在来線の首都圏線区に導入する。

従来、信号設備の障害が発生した場合、技術者のこれまでのノウハウと復旧に向けたマニュアルに従い、指令員が現地係員を指揮。信号機やポイント転換装置などに測定器を当てて電圧を計測するなど、多くの装置の状態を一つひとつ確認しながら原因を絞り込んだ。

同社電気システムインテグレーションオフィスの信号技術管理センターの杉浦弘人所長は「9割程度の障害は30分以下で復旧できている」と指摘しつつ、「年に1、2回、復旧まで2、3時間かかるような事故も発生する」と述べる。10年以上前に起きたような極めて希な事象の場合、原因特定に時間が必要なこともある。

AIによる復旧支援システムの画像イメージ(JR東日本提供)

一方で、AIには過去17年分約3000件の輸送障害のデータを学習させた。障害の発生状況の時系列を入力すると、AIが類似度から可能性の高い事例を抽出し、障害の原因や復旧方法を提案する。たとえ発生頻度の低い事象でも問題はない。 提案をもとに指令員が現地の係員に指示を出すことで、早期の調査箇所の絞り込みや復旧を可能にする。杉浦所長は、「時系列をフラットに判断し、ベテランの方に近しい答えを引っ張ってきてくれる。過去のデータは我々にとっての財産だ」と強調する。

早期の発生原因の絞り込みと復旧が可能になれば、深夜や台風などの悪天候、厳冬期でも時間や場所を問わず作業する現地係員の負担軽減にもつながる。また、ベテランのノウハウの技能承継という観点からもAIの導入は有効だ。

今後、順次対象エリアを拡大し、地方路線や新幹線でも同様のシステムが導入できないか検討する。(編集委員・小川淳)

日刊工業新聞 2022年12月30日

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