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アイシン・旭鉄工…車部品メーカーがコンプレッサーで推進する温室ガスゼロ

アイシン・旭鉄工…車部品メーカーがコンプレッサーで推進する温室ガスゼロ

アイシンの安城第一工場のeアクスル組み立てライン。コンプレッサーを大型から小型に移行している

電力使用量の削減やカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)を実現すべく、多様な改善活動を行っている自動車部品メーカー。生産工場では“できる所から”を合言葉に取り組みが加速する。その一つがコンプレッサー。多いケースでは工場の消費電力の2割程度を占めるとされるコンプレッサーを大型製品から小型製品に置き換える動きが目立つ。圧縮空気の供給量を生産の実態に合わせて最適化してカーボンニュートラルを進める。(名古屋・川口拓洋、同・鈴木俊彦、編集委員・錦織承平)

旭鉄工 消費量見える化▶2.7%削減

自動車用エンジンや変速機の部品を熱間鍛造で手がける旭鉄工(愛知県碧南市、木村哲也社長)では、排出する二酸化炭素(CO2)のうち約8割を電力が占める。その消費を抑えるため、生産性向上と設備の電源をこまめに切るといった改善活動を展開している。

独自のIoT(モノのインターネット)モニタリングシステム「アイザックス」を応用し、電力計測器を常時使用しなくても設備の稼働情報から電力消費量を算出することに成功。電力消費量の見える化から生産現場の課題の把握につなげている。

同社では、昼休みなど休憩時間でも設備が「待機」していることに気づき、設備の電源を切る取り組みを始めた。また、1時間当たりの電力消費量を分析すると夜間は補給ラインしか動いていないにもかかわらず、電力使用料が高いことが判明した。生産現場を確認すると、37キロワットのコンプレッサーが2台稼働していることに気がついた。

木村社長は「こんなに大きなコンプレッサーは必要ない」と判断。夜間操業は新たに導入した1・5キロワットのコンプレッサー1台の体制に切り替えた。これにより電力消費量を従来比2・7%削減できた。「デジタルデータにより設備を見える化することで課題が分かる。費用がかかる省エネルギー設備を導入する前に取り組むべきことはたくさんある」(木村社長)と続ける。

アイシン 設備見直し、必要な量だけ供給

コンプレッサーの大型から小型への転換は、自動変速機(AT)や電動駆動装置「eアクスル」などを手がけるアイシンでも進む。安城第一工場(愛知県安城市)や新豊工場(愛知県豊田市)などでコンプレッサーの小型化に取り組んでいる。

新豊工場で11月に稼働を始めた軟体部品の自動化工程では、小型コンプレッサーを設備に取り付け、必要な量だけを供給する方式をとる。グループ生産技術本部第1車体室の鎮田秀哉室長は「新しい試み」と説明する。

これまでアイシンの工場では大型コンプレッサーで各製造ラインにエアを供給してきた。ただ工場全体に配管を張り巡らす必要があり、さらに距離が遠くなるとエネルギーが減衰する「圧力損失」が生じる。そのため「装置の使用する最大値を確保・供給する必要があり、コンプレッサーを大型化する傾向にあった」(鎮田室長)という。

同社では設備で使うエアの使用量を極力減らす方向に転換する。新豊工場では常時6台の大型コンプレッサーが稼働していたが、22年度は1台を削減することに成功した。「電力費やCO2の削減につながる。大型コンプレッサーを稼働させるための電力は大きい」(同)と明かす。

同社は「35年の生産におけるカーボンニュートラルや、40年のゼロエミ工場達成に向けた取り組みの一つ」と補足説明する。

日立産機システム 圧縮空気、生産に合わせ最適供給

日立産機システムのアモルファスモーター体型スクロール圧縮機

製造ラインの省電力化、CO2排出量削減の取り組みが進む中、コンプレッサーの省エネ対応では、生産実態に合わせて圧縮空気を最適供給する形が理想だ。メーカー側では必要なところに、必要なだけのエアを供給するという考え方をベースに製品開発やサービス展開が活発化している。

小型の「ベビコン」をはじめ、中・大型までのコンプレッサーを製造・販売する日立産機システム(東京都千代田区)は、主要顧客である製造業の生産ラインに応じ、高効率のコンプレッサーと利用方法を提案している。自動車業界などで省エネやCO2排出量削減のために、コンプレッサーを分散設置して「適所適圧・適時適量」で利用するニーズがあり、「中・小型機の圧縮機本体やモーターといった主要部品のエネルギー効率向上に注力している」(同社)という。

高効率のアモルファスモーターとスクロール圧縮機を一体化し、高効率・小型化・可搬性を実現した小型機を開発しているほか、クラウドシステムを活用してコンプレッサーの稼働状況を遠隔監視するサービスも展開している。遠隔監視では設備運用を効率化する余地を可視化できるのに加えて、最適なタイミングで保守サービスを提供して設備の停止時間を短縮することで、ユーザーの省エネや脱炭素に貢献している。

CKD 持ち運び可能で手軽さ特徴

CKDのキャリータイプの小型コンプレッサー。手軽さを追求したという(左)ロボットによる組み立て工程で小型コンプレッサー(写真下)を活用した局所エア供給を実現している(CKDの春日井工場)(右)

CKDの持ち運び可能な小型コンプレッサー「エアサプライユニット ASUシリーズ」は2010年代半ばの投入以来、ロングセラーとなっている。静音コンプレッサーとフィルター、バルブなどエア調質機器を一体化しており、圧縮エアを供給する際の手軽さが特徴だ。「コンプレッサーの考え方を変えることができた」(機器事業本部フルードシステムBU・佐野喜紹GL)と手応えをつかんでいる。

100ボルト電源で使え、ポンプ電動機出力が300ワット、90ワットの二つのタイプを用意する。このほか同出力が90ワットで、より手軽さを追求したキャリーケースタイプを17年に投入。製造現場だけでなく、少量の圧縮空気を利用するオフィスや研究ラボ、展示会でのデモなどに用途を広げている。

環境対応として製造設備の電動化が進む中でも「エアを利用するニーズは継続する」(同)と見込む。ロボットの普及に伴い、製品をつかんだり、吸着したりする動作など圧縮空気の供給を必要とする用途が増えてくると見る。

モノづくりの高度化に伴って、機能面では「エアのさらなる清浄度向上に対する要求がある」(同)という。今後も変化するニーズに対応するため製品ラインアップの拡大を検討する。


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日刊工業新聞 2023年01月18日

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