「無人自動運転」4月解禁、サービス開発競争に帯びる熱
2023年は国内の複数の地域で運転手のいない自動運転バスが公道を走り始め、地域交通の転機となりそうだ。政府は4月、特定条件下で運転を完全に自動化する「レベル4」の運行許可制度を盛り込んだ改正道路交通法を施行し、バスやタクシーを使った無人自動運転移動サービスを解禁する。焦点となる安全性を確保するために新製品やサービスの開発も進んでいる。(石川雅基)
交通弱者支援ニーズ対応
「日本は少子高齢化という課題先進国だからこそ、自動運転バスの需要が高まる」。ソフトバンク傘下のBOLDLY(ボードリー、東京都港区)の佐治友基社長は、地域交通が衰退する地方で自動運転バスを運行させる意義をこう強調する。ドライバー不足や免許返納による交通弱者の増加が深刻化する地方こそニーズがあるとみる。
同社は22年12月までに、自治体や企業と連携して自動運転バスの実証実験を全国で約130回実施。既に羽田イノベーションシティ(東京都大田区)、茨城県境町、北海道上士幌町の3カ所では定常運行にこぎ着けた。羽田イノベーションシティでは車両を出入庫する際を除き、ほぼ全て自動走行を実現。4月以降、羽田イノベーションシティ、上士幌町、境町の順にレベル4での運行を各都道県の公安委員会に申請する考えだ。
4月に施行される新制度では、運転者のいない自動運転を「特定自動運行」と定義。サービス事業者には運行を遠隔監視するか、車両に乗車する「特定自動運行主任者」の配置を求める。特定自動運行主任者が複数台の自動運転車を見守ることで、事業者は運行コストの削減につなげられる。
都市部での自動運転移動サービスの提供を目指し、国内自動車メーカーも動き出している。ホンダは20年代半ばに東京都心でのサービス開始を目指し、栃木県で技術実証を始めた。22年4月にはタクシー事業を手がける帝都自動車交通(東京都中央区)、国際自動車(同港区)とサービス設計や役割・責任分担の在り方などについて検討する基本合意書を締結。「料金はタクシーとバスの間」(ホンダ)を想定する。車両は米ゼネラル・モーターズ(GM)などと開発を進めている。
今後、自動運転移動サービスを身近な交通手段として広く普及させる上で、地方・都市部ともに課題となるのが安全性と採算性の両立だ。自動運転に詳しいSOMPOインスティチュート・プラスの新添麻衣主任研究員は「(国内では)自動運転の小型シャトル1台とシステムを導入するための初期投資だけで、少なくとも5000万円は必要となる」と指摘する。
加えて、レベル4では運転手が介在しないので事故自体は減るとみられるものの、高性能センサー「LiDAR(ライダー)」やカメラをはじめ、車載機器が高価なため「事故1件当たりの修理費用が高騰する可能性がある」(新添主任研究員)という。バスは赤字事業者が大多数を占めるだけに、コスト面からも安全性の確保が求められることになりそうだ。
そこで安価に走行性能を高める手段として、日本ペイントホールディングス(HD)傘下の日本ペイント・インダストリアルコーティングス(東京都品川区)は、車両の位置推定の向上につながる特殊塗料「ターゲットラインペイント」を開発。走路に塗装された特殊塗料をライダーで認識することで正確な位置情報を取得しながら走行できる。全地球測位システム(GPS)を使いにくい、ビル街やトンネル内でも安定して走れる。道路に設置する磁気マーカーに比べ「導入費用を半分、維持管理費用を10―20%程度に抑えられる」(日ペHD)という。
データを活用して安全性を高める取り組みも進んでいる。東京海上日動火災保険は22年10月、事故データやドライブレコーダーから集めた走行データを分析して危険箇所を把握できるリスクマップを開発。これを使った自動運転のリスクコンサルティングサービスに乗り出した。既にホンダに提供済みだ。
現在、リスクマップには東京海上日動側からしかアクセスできないが、サービス拡大を目指し、将来は「個人情報に配慮した上で、顧客側からもアクセスできるようにしたい」(東京海上日動)考え。さらに「データを使って自動運転の安全性を第三者の立場から検証、証明できないか検討している」という。
政府は30年までに全国100カ所以上で自動運転移動サービスを実現することを目標に掲げる。今後、自動運転に関連する製品やサービスの開発競争がさらに熱を帯びそうだ。
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