お寿司のサーモンは陸育ち?急拡大する陸上養殖ビジネス
高級魚を中心に対象魚種が急増中
陸上養殖の主な対象には、ニジマス(トラウトサーモン)、サツキマス、ヒラメ、トラフグ、チョウザメ、カワハギ、ハタなどの魚類や、エビ、アワビなどがあります。先進技術を駆使した陸上養殖は本格的に実用化されてから歴史の浅い技術ですが、積極的な研究開発の成果により、対象魚種が広がっています。理論的には多様な水産物を生産可能ですが、天然ものや一般的な海面養殖ものと比較して高コストなため、現在は高級魚が中心です。特に勢いがあるのがサーモンです。通常のサケは寄生虫のリスクがあり生食に向いていないため、生食できるサーモンとして陸上養殖サーモンが注目されているのです。
陸上養殖の具体事例を見ていきましょう(表)。鳥取県湯梨浜町の泊漁港では、加工場用地などにヒラメ、アワビの陸上養殖施設を整備し、展開しています。養殖施設の隣で直売所や食堂(「ひらめのうまか丼」が名物)を運営する6次産業化、地元の醤油業者との連携による商品開発、養殖もののふるさと納税への採用など、陸上養殖という先進技術を核に地域のビジネスが広く結びついている点が高く評価されています。
愛知県田原市では陸上循環ろ過方式の養殖施設によってニジマス(渥美プレミアムラスサーモン)の生産が行われています。年間生産量が6万~7万尾の本格的な陸上養殖施設です。味や鮮度の良さに加えて、地下から汲み上げたきれいな海水を紫外線殺菌して使用することで、薬品の不使用を実現している点がセールスポイントの1つとなっています。また、閉鎖循環式のため、かけ流し式に比べて水の使用量を1/100程度に抑えることができるという環境面の特徴もアピールしています。
陸上養殖のビジネス化の進展に伴い、大規模な陸上養殖施設の建設が進んでいます。静岡県の工業団地では、ノルウェーの陸上養殖企業、プロキシマーシーフード社の子会社がアトランティックサーモンの陸上養殖事業の立ち上げを進めています。延床面積約28,000㎡の巨大な閉鎖循環型の陸上養殖施設であり、日本最大級のサーモンの陸上養殖になるとされています。
規模はさほど大きくないものの、地域密着型の陸上養殖プロジェクトも各地で立ち上がっています。例えば島根県出雲市では廃校舎の武道場を活用してカワハギを、奈良県天川村では廃校の教室でトラフグを陸上養殖しています。
Point
● 生食用サーモンなどの旺盛な需要を受け、陸上養殖は儲かるビジネスに
● 超大型陸上養殖施設も登場へ。廃校舎などを使ったユニークな取り組みも
(「図解よくわかるスマート水産業」p.94-95より抜粋)
<販売サイト>
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<書籍紹介>
書名:図解よくわかるスマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス
著者名:三輪泰史
判型:A5判
総頁数:168頁
税込み価格:2,420円
<目次>
第1章 日本の水産業の特徴
第2章 日本の水産業に迫る5つのリスク
第3章 水産物需要のトレンド
第4章 スマート水産業はビジネスになる
第5章 スマート水産業×海面漁業
第6章 スマート養殖業
第7章 地域の資源を活かしたサステナブル養殖
第8章 スマート水産業×加工・流通
第9章 付加価値を高めるバイオテクノロジー
第10章 台頭する藻類養殖
第11章 スマート水産業を加速させる最新トレンド