医療現場にデータ利活用をもたらしたメディカル・データ・ビジョン、岩崎社長の経営哲学
ルールに例外なし、信頼築く
経営理念に掲げる「正々堂々」は、提供するサービスの価値と自信の現れだ。日本の医療現場にデータ利活用の文化をもたらしたメディカル・データ・ビジョン(MDV)の岩崎博之社長は、「大病院をターゲットに医療データを取得するには、自分たちが胸を張れる存在でなければ成長できない」と話す。
マルチメディア業界にいた20年ほど前、依頼を受けて医療について調べ始めたところ、診療科の中でも特に小児科や産科の現場は疲弊が進むことが見えてきた。日本の医療の未来を憂ううちに、「自分ができることはないか考え、データを使って医療の質を高めるビジネスモデルを思いついた」。
MDVを立ち上げ病院へ訪問するも、なかなかシステムは売れなかった。事務員が徹夜で作業していたデータ集計やグラフが一瞬で表示され、編集も自在なシステムは病院からの反応はいい。しかし病院は民間企業と異なり、データを共有する文化がない。どうすればデータを出してくれるのか―。「まずは信頼を勝ち取るモデルを作ろう」と考えた。納品したサーバーシステムのトラブルにはすぐに対応し、システムの有効活用事例は他の利用者と共有する取り組みを続け、地道に関係を築いた。
「例外を作らないこと、値引きをしないことを徹底してやってきた」。今では当たり前になったベンチマークも、当初は他の病院のデータは見たいが自分の病院のデータは見せたくない、とよく言われた。「データは見たら見せるのがルール。売りたくてしょうがなかったが、例外は絶対に作らなかった」。
また事業を始めた頃、ある病院の事務部長にシステムの説明をしているとすぐに持ってきてくれと言われた。「製品の必要性を理解してくれたから値引き交渉もせずに買ってくれた。価値を分かって買ってくれる顧客のためにも、値引きはしない」。例外なくルールを徹底し、胸を張って顧客とパートナーでいられる企業であり続ける。
医療業界でデータ利活用の道を作ったMDVだが、立ち上げ当時は民間企業が病院のデータを活用するなど考えられないことだった。「迷わず、即断即決でやると決めた方法で進める。できないといわれていたのに、たった5年で大病院のデータが取得できるようになった」と振り返る。センシティブな個人情報を含むだけに、医療業界はデータの取り扱いに慎重だ。こうした業界でデータ活用を広められたのは、信念を持って事業を進め、信頼を築いていったからだろう。(安川結野)
【略歴】いわさき・ひろゆき 86年(昭61)新日本工販(現フォーバル)入社。02年日本医療データセンター入社。03年MDV設立、代表取締役、14年社長。群馬県出身、62歳。