大事なのは顧客第一主義、日立建機社長の経営哲学
「入社以来、大事にしていること。それは何事も顧客が第一、顧客の目線に沿ってその都度事業の判断をしていくことだ」。日立建機の平野耕太郎社長は、しみじみとこう話す。社長就任以来、30数年間続いてきた米国ディア・アンド・カンパニーとの合弁関係解消、日立製作所の建機株の特別目的会社への売却など、立て続けに大きな出来事を経験した。特に米ディアとの合弁解消はケンカ別れのイメージでとらわれがちだが、平野社長に言わせれば双方が互いに納得する“円満解決”。そう言い切れる言葉の裏には「何事も客目線で、どうするのが顧客に一番良いのかをずっと考えてきた」自信と自負がある。
入社して最初に配属されたのは土浦工場技術部技術課。新しい機種やカスタマー仕様の製品が多かったという。「1台1台で納期や仕様が違う。その時から“客の顔が見える仕事”を常に意識してきた」。顧客重視の姿勢は、この時代に培われた。
その考えは、役員や社長になってからも受け継がれた。米ディアとの合弁は1988年以来続いてきたが、平野社長の胸には「合弁を通じてだと、客の生の声が全然入ってこない」もどかしさがあった。確かにディアから「何月の売り上げはこれこれで、伸びています」などと報告が来る。しかし客が日立建機の製品に本当に満足しているのか。客の声を聞けばもっと寄り添って、客側に役立つ新たな提案ができるのではないか―。
客情報があれば故障予知やメンテナンスソリューションなど、高付加価値サービスも容易になる。ディアの側にも自前で建機をやりたいとの思いがあり、最終的に円満解決。「人間だれでもそうだが、安定した今の状況を変えることには不安がある。しかし現状維持のままでいては現在は良くとも、5年6年先にライバル企業との競争に勝てない」。ライバルとは米キャタピラーや日本のコマツ、中国の三一重工といった名だたる国際建機大手だ。米国だけの市場にとどまらず、展開先は常にグローバルを見据える。平野社長の世界観がそこにある。
戦う市場が米州であっても欧州であっても中国やアジアでも、根底の思いは同じ。それは客の願いに、客側の要望に常に寄り添うということだ。環境対応の背景で最近は電動化や省エネの問い合わせも増えている。「電動化は排ガス以外に、騒音が少ない長所もある。技術革新が進むほど我々のチャンスだ」と瞳を輝かせる。(編集委員・嶋田歩)
【略歴】ひらの・こうたろう 81年(昭56)中央大法卒、同年日立建機入社。13年生産・調達本部副本部長、14年執行役、16年執行役常務、17年社長、19年社長兼最高経営責任者(CEO)。東京都出身、64歳。