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惣菜盛り付け・めん類系が中心に…食品ロボット開発「変化の波」の背景

惣菜盛り付け・めん類系が中心に…食品ロボット開発「変化の波」の背景

コネクテッドロボティクスの総菜盛り付けロボット。小型・低価格化とともにスピードアップを目指す

外食店舗やホテル・レストラン関係者の注目を浴びてきた食品分野向け省力化ロボット。ここに来て開発状況に変化が見えてきた。ハンバーガー調理やカフェロボット系は影を潜め、足元ではポテトサラダなどの総菜盛り付けロボット、パスタやそばなどめん類系のロボットが開発の中心だ。メーカー各社の食品ロボット開発の最前線を追った。(編集委員・嶋田歩)

コネクテッドロボティクス 小型・量産化で価格低減

コネクテッドロボティクス(東京都小金井市)は総菜業界向けに、ポテトサラダなどの盛り付けロボットを開発済みだ。マックスバリュ東海のデリカ長泉工場(静岡県長泉町)に4台を納入し、稼働中。セイコーエプソン製のスカラロボット(水平多関節ロボット)をメーンに構成しており、処理能力は毎時250食。消費税抜きのシステム価格は1500万円程度。

コネクテッドロボティクスの佐藤泰樹取締役最高執行責任者(COO)は「2024年めどに処理能力を現在の2倍の500食に高めるとともに、小型化と量産化を図り、価格を半分程度に引き下げたい」と話す。

人間と並んで作業するアールティの双腕型の盛り付けロボット

また弁当や総菜容器のふた閉めロボットや、食品に特化した人工知能(AI)検査ソフトウエアも開発中だ。ふた閉めロボットの処理能力は毎時1200枚で、さまざまなサイズ、形状、はめ合わせ方式に対応できる。川崎重工業やセイコーエプソンなどと組んで開発中で、23年2―3月ごろに商品化予定だ。

惣菜盛り付けからふた閉め、検査など一連の工程を自動化することで省力化効果を高め、スーパーやコンビニエンスストア向けのベンダーや外食大手などに提案する。

他方で、以前取り組んでいたハンバーガー調理ロボットは、休止状態という。「低価格指向が重荷だったところに、最近の円安と飼料高騰による牛肉コスト上昇がとどめになった」と佐藤取締役は明かす。消費者の低価格指向が製品展開にも、影響を及ぼしているようだ。

総菜などの盛り付けロボットでは、アールティ(東京都千代田区)も双腕協働ロボットを使ったシステムを開発している。

テックマジック パスタ自動調理

テックマジック(東京都江東区)は、喫茶店などをチェーン展開するプロントコーポレーション(東京都港区)が6月に東京・丸ビル内に開いた新業態店「エビノスパゲッティ」に、パスタ自動調理ロボット「P―Robo」を納入した。

エビノスパゲッティに納入したP-Robo。深鍋型フライパンをロボットが高速撹拌し、短時間で調理する

P―Roboの調理速度は1食当たり最高45秒だ。IH調理の深鍋型フライパンに具材を投入、高出力・高回転の組み合わせでむらなく均等に撹拌加熱し、短時間調理によりソースが煮詰まらず、麺になじむ。アームロボットで同時に4台のフライパンをハンドリングすることで高速調理を実現した。

「具材、ソースの供給から調理や洗浄まで一連工程を自動化するだけでなく、熟練シェフの味を再現することに注力した」と白木裕士社長は強調する。

現在までにプロント系列店でのP―Roboの稼働台数は計3台に増えた。またテックマジックは「世界の料理と最先端技術が融合」と銘打ったスパイスヌードル専門店「香味麺房」を8月に東京・恵比寿で開設した。P―Roboの“実験場”としても活用し、生産性アップとオペレーションの標準化を目指している。

P―Roboは27年までに累計150台の納入目標を掲げる。また同社は、キユーピーと総菜盛り付けロボットを開発中であるほか、味の素からアドバイスを受けつつ、調理ロボットの開発を進めている。「調理ロボットは人の代替だと考える企業も多いが、当社としては人の代替以上に、調理ロボ活用による次世代食文化の創造を目指したい」と白木社長は力を込める。

ロボット各社に共通するのは、飲食チェーンや総菜ベンダーなどの大手と組むことで将来的な大量受注の道を確保している点。開発を実現できれば加盟店や工場向けに継続・安定受注が期待できる。量産効果によるコストダウンで、ライバルの参入障壁は上がる。

キュービットロボティクス カフェロボから配送向けにシフト

キュービットロボティクス(東京都中野区)は、かつては接客と同時にカップにコーヒーを入れるカフェロボットの展開に注力していた。だが、現在の主力は集合住宅などを対象とした配送ロボットだ。

キュービットロボティクスのカフェロボットは導入可能な店舗に限りがあったという

カフェロボットは人工知能(AI)で通りかかる人の年齢や性別を識別し、「お客さまにはカフェオレがお勧めですよ」などと明るい声がけをするのが売り。しかしシステム価格が3000万―4000万円近くする上に、設置面積が大きい。「費用対効果から考えて導入可能な店舗数が限られ、市場が伸びない」(中野浩也社長)と判断した。

配送ロボットならフロア別などで、はるかに多い台数を売れるめどが立つ。警備ロボットや清掃ロボットなど関連ロボットと組み合わせ、ビル1棟単位の受注も可能だ。外食関係は現在は居酒屋向けのチューハイ注ぎロボットで開発を続けている程度だという。

低価格・アフターサービスが普及のカギ

ロボットの得意分野は単純作業の長時間労働。例えば牛丼では、決められた各種食材を、所定の分量で盛り付けて基本形を仕上げるといった具合。一方、食材が頻繁に変わるような作業は苦手とするため、基本形の牛丼にチーズなどをトッピングする作業は人間にバトンタッチするイメージだ。

ロボット導入に際しては、ロボットが得意とする作業を人とすみ分けて割り当てられるかどうかの見極めが必要となる。さもないと現場で「やはりロボットは使えない」になってしまう。

ロボットが現場に普及するためには低価格化努力も欠かせない。背景には総菜商品に対し低価格を求める消費者の姿勢がある。スーパーの店頭で総菜商品の人気は高いが、500円を超す商品はほとんど売れない。一般消費者が求めるのは298円や398円のサラダであり、この価格帯で総菜各社は勝負をしているのが実態だ。

必然的に、ロボットに対する低価格化要求も厳しくなる。コスト面から見たロボットの競争相手は、直接的にはパート女性や外国人労働力などだが、人手不足とコロナ禍、円安などでなり手が減っている。人件費が上がり価格競争面のハードルは下がると思いきや、最近の半導体不足と原材料高騰でロボットの原価も上がっており、メーカーの立場は厳しい。

ロボットはまだ現場で完全に使いこなされているとはいえず、急な故障やトラブルの対応が問題になる。低価格を売りとする中国メーカーに比べ、日本メーカーはトラブル対応や部品供給などアフターサービスも売りものにするケースが多い。この強みを顧客に適切に訴求していけるかが、選ばれるための重要な要素となる。

日刊工業新聞 2022年12月22日

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