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501億円基金創設、国際共同研究を推進する政府の本気度

文部科学省は政府主導で国際共同研究を推進するため501億円の基金を創設する。米国主導の経済安全保障に資する重要技術開発や日本研究者の地位低下に対応する。くしくも2022年は日中国交正常化50周年にあたる。中国は米国を抜いて科学技術強国になりつつある。祝賀ムードよりも、深まる米中対立に日本の学術界が立ち向かう足腰を作る年になった。

「政府関係者から、ぜひ一緒にやろうと声がかかっている」と科学技術振興機構(JST)の橋本和仁理事長は目を細める。先端国際共同研究推進事業の501億円の内、440億円をJST、61億円は日本医療研究開発機構(AMED)が配分する予定だ。

同事業は橋本理事長がきっかけを作った。4月に理事長に就任して裁量経費の2億円をすべて注ぎ込んでトップダウンの国際共同研究事業を始めた。これは就任時に各国の大使館から「日本の地位低下で研究者の顔が見えなくなっている」と指摘されたためだ。

JSTのパイロット事業として始め、8月の23年度当初予算案には40億円の新規事業として選ばれ、12月に成立した22年度第2次補正予算案では501億円の基金になった。250倍になった。

新事業では2カ国の資金配分機関が協調してそれぞれの国の研究者に大型資金を提供する。対象分野は政府の定める重要技術で、半導体や量子技術などが選ばれるとみられる。

欧米とはトップダウンで関係を強化する一方、中国などとはボトムアップで関係を深める。文科省は科学研究費助成事業の国際先導研究枠の拡充のために110億円を積み増す。1件最大5億円で、20―40人の大型チームが国際連携する。

米中ともに資金は手当てした。経済安保に関わる研究など、情報管理の要求レベルはさまざまだ。実践を通して最適な連携形態を模索することになる。これら事業は年が明けたら動き出す。研究者は研究計画を練る年越しになりそうだ。

日刊工業新聞 2022年12月07日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
国際共同研究だけでなく脱炭素や総合パッケージ、経済安全保障など、補正予算でドカンと積まれました。縮小均衡だったアカデミアが反転するかもしれません。文科省はがんばりました。先端国際共同研究推進事業ではトップ・オブ・トップの連携を進めたいそうです。トップ研究者の中でもトップの研究者同士が大型予算で思う存分研究します。年間1億円で5年間のプロジェクトが100本ほど組成されます。科研費の国際先導枠も最大5億円なので、合わせると120本ほどの大型テーマが走ります。補正予算を組んでまで確保した基金を生きたカネに変えるのは研究者です。初詣で予算が当たりますようにと祈るのでなく、海外の研究仲間と我々こそがトップ・オブ・トップであると動かぬ証拠を突きつける算段をしたいところです。

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