JSTが「国際共同研究」強化で一手、背景にある“蒸発”への危機感
科学技術振興機構(JST)は、国際共同研究強化のために理事長裁量経費で研究支援事業を始める。日本の研究者と海外の研究者に対してJSTと海外の資金配分機関で協調して資金提供する。支援規模は年間2000万―5000万円。9月に公募を始め、4―10件ほどを採択する。
国際共同研究の日本側のチームをJSTが支援する。共同研究先は米国と英国、ドイツ、フランス、カナダを想定する。相手国の資金配分機関とJSTで合意し、それぞれの国の研究者に資金提供する。予算規模は理事長裁量経費の2億円を当てる。1件の支援規模は年間2000万―5000万円。5年程度支援する。
国際共同研究では日本側の若手を相手国に派遣する構想を盛り込む。研修や学位を取得できるレベルの研究を海外で行う。同様に相手国側の優秀な人材受け入れを支援する。
研究領域はバイオや人工知能(AI)・情報、マテリアル、半導体、エネルギー、量子、通信を想定。政府が重点分野に挙げる研究領域に設定した。同領域は経済産業省の産業振興政策と文部科学省の科学技術政策を連携させやすく、学術界と産業界の双方の強みを相手国に提案できる。
世界では日本の地位低下が続き、科学誌の諮問委員や国際会議の招待講演者が減っている。JSTにはこのままでは国際的なネットワークから日本が見えなくなる〝蒸発〟への危機感がある。JSTの橋本和仁理事長は、前職の物質・材料研究機構理事長の時に、理事長裁量経費で小さく事業を試して国の施策のひな形を作ってきた。新事業の知見を国際的な頭脳循環強化策の企画立案につなげる。
日本人研究者の地位向上 文科省、欧米との連携強化に35億円
文部科学省は日本人研究者の国際的な地位向上を狙い、欧米などの先進国との共同研究を後押しする。「先端国際共同研究推進事業」として2023年度予算の概算要求に新規で35億円を計上する。
共同研究を通して日本人研究者が国際コミュニティーの主要ポストに選ばれる土台を構築する。同時に若手研究者の海外への送り込みや引き受けを通じて、人材の獲得や頭脳循環を促す。
米中摩擦やロシアによるウクライナ侵攻を機に、欧米で連携先を中国から日本に振り向ける動きがある。ただ主要な科学誌で諮問委員の日本人比率が低下し、論文の掲載率も相対的に低下している。
日本と海外の資金配分機関が協働して研究資金を提供し、両国のトップ級研究者らの共同研究数を増やす。地位低下が指摘される日本の存在感の向上につなげる。
共同研究については政府が設定する先端分野を想定する。半導体やエネルギー、バイオ、量子などが選ばれるとみられる。
資金配分機関は公募研究に対して資金を配分する。海外と連携することで互いの研究管理や監督ノウハウが交換される。
海外では研究機関と資金配分機関の間での人材流動性が高く、トップ研究者が施策の企画運営を担っている。資金配分機関同士の信頼は、経済安全保障に関わる研究に必須になる。