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次世代エネルギー「核融合」研究が大きく前進、量研機構が実験炉を来夏運転

次世代エネルギー「核融合」研究が大きく前進、量研機構が実験炉を来夏運転

核融合実験装置「JT-60SA」

量子科学技術研究開発機構(量研機構)は延期していた核融合実験炉「JT―60SA」の運転を2023年夏にも始める方針を固めた。近く正式決定する。当初は20年の運転開始を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大や超電導コイルに不具合が生じたため延期していた。不具合解消などにめどを付けたことから、来夏の運転開始に照準を合わせて準備を進める。二酸化炭素(CO2)を排出せずに発電でき、次世代エネルギーとして期待される核融合の研究が大きく前進する。

量研機構は23年1月からJT―60SA全体の統合試験を始める。同年2月頃から超電導コイルを冷却し早ければ5月にも運転開始の目安となるファーストプラズマを目指す。JT―60SAは国際熱核融合実験炉(イーター)を補完する役割を持つ。量研機構と欧州連合(EU)の共同事業体で進めてきた。

JT―60SAはイーターの約半分の大きさだが、核融合反応を起こすプラズマの形状が異なる。この特性を生かし、核融合反応の効率を高める最適なプラズマを探っていくことが目的。イーターでは実施できない実験をすることで、核融合の研究を進展させる。

核融合は太陽のエネルギー運動を再現したシステム。重水素と三重水素をプラズマ状態でぶつけ、生じた熱で発電する。超電導コイルの磁場でプラズマを閉じ込める「磁場閉じ込め方式」とレーザーなどを燃料に照射し瞬間的に核融合反応を起こす「慣性閉じ込め方式」に分かれる。JT―60SAは磁場閉じ込め方式に分類される。

レーザー核融合をめぐっては、米エネルギー省が13日にローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の実験で核融合を起こすために投入した分を上回るエネルギーを取り出せたと発表。21年夏では70%のエネルギー取り出しが最高で、研究が大きく進展した。

一方、磁場閉じ込め方式はかねてより投入エネルギーと等しい出力エネルギーが得られる「臨界プラズマ」を達成しており、実用化に近いとされる。日本も実用化に向けた計画策定は磁場閉じ込め方式の一つであるトカマクを念頭に置いてきた。

政府は原型炉を使った実証前倒しや核融合産業の育成を含めた戦略を23年春までに策定する。発電の実用化に向けた原型炉の開発体制については量研機構を中心に民間の参画を募る形で進める方針。米国や英国、中国も独自に核融合戦略を策定しており、イーターを中心にした協調の時代から、競争の時代に移行しつつある。

日刊工業新聞 2022年12月16日

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