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AIが威力、住友ファーマが挑む「インシリコ創薬」とは?

AI・ロボットで変わる創薬現場 #06

住友ファーマは「コンピューターの中で」という意味を持つ「インシリコ創薬」に取り組んでいる。仮説を立てて検証する従来の研究開発から計算科学を駆使した方法に転換。社内外のバイオや化学、生体のデータを解析し、効果的な標的の探索や疾患の仕組み解明を進める。その一環として人工知能(AI)も活躍する。

2010年ごろから化合物の構造情報で機械学習を導入。16年ごろのAIブームの波に乗り深層学習などの活用が進み、インシリコ創薬が本格化した。可視化や分析のツールは充実した市販品を活用し、化合物の動態予測AIは自社で確立。既存の医薬品を別の適応で活用するリポジショニングで成果が出始めている。

新薬開発では特に精神神経領域でAIが力を発揮する。同領域は多様な症状に対応するため標的が複数であることが多い。同時に毒性がないよう標的以外の分子には作用してはいけない。さらに体内のバリアーを突破して脳へ到達する必要がある。条件全てを満たす化合物をAIと模擬実験の活用で効率的に探索できる。基盤技術研究ユニットの市川治マネージャーは「仮想実験で絞り込んだ有望な化合物のみ合成することで大幅に効率化できる」と話す。AIは社内アプリとして共有している。

医薬品の効果を判断するバイオマーカー探索も期待される。精神神経領域の医薬品の効果は社会性が関わるため動物実験が難しく、患者での判定も主観的になりやすい。そこで音や光へ応答する脳の信号などのバイオマーカーから定量的な判断を目指す。

インシリコ創薬の充実に向けてデータサイエンス人材の採用も進めるが、業界を超えた獲得競争が激しい。橋本雅一基盤技術研究ユニット長は「社内の底上げが必要で、計算学と生物学の両方に関心を持った人を伸ばしていく」考え。専門医や大学・研究機関との連携も進め、コスト抑制や開発速度、成功確度の向上を目指す。

日刊工業新聞 2022年11月21日

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AI・ロボットで変わる創薬現場
AI・ロボットで変わる創薬現場
新薬をつくる創薬の研究現場で人工知能(AI)やロボットの導入が進んでいます。医薬品の開発には十数年の期間を要し、その難易度やコストは上昇の一途をたどります。こうした中、国内の製薬大手はデジタル技術をどう活用し、創薬の成功率を高めていくのか。動向を追いました。

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