経口抗がん剤の先駆け、大鵬薬品工業が挑むAI・ロボ協働で創薬
大塚ホールディングス傘下の大鵬薬品工業(東京都千代田区、小林将之社長)は、経口抗がん剤の先駆けでグループ内で主にがん領域を担う。自社創薬率が約78%と高く、難治性がん治療薬の開発などに挑む。研究本部長の相良武執行役員は「創薬研究は予測通りにはいかない。だから小さな会社にもチャンスがある」と言う。
大鵬薬品は創薬の標的となるたんぱく質中の特定のアミノ酸(主にシステイン)を認識して共有結合する独自の「システイノミクス創薬」基盤を持つ。最近、開発したFGFR阻害薬フチバチニブが胆管がんの治療薬として米食品医薬品局(FDA)から承認を得て、同基盤による新薬第1号が誕生した。
同じく自社の「RAS創薬基盤」では米メルクなどとKRAS変異を標的とした創薬に力を入れる。こうした独自の基盤を用いた低分子創薬の効率化に向け、2018年に日立製作所と人工知能(AI)を使った創薬標的の探索を開始。その後、化合物の設計にもAIを取り入れた。
大量の論文をAIが読み込んで解析し、候補となる標的たんぱく質をリスト化する。その中から研究者が対象を絞り込むが、AIの活用により検証すべき仮説が一気に増えた。
「AIを本質的に使いこなすには、研究の自動化が欠かせない」(相良執行役員)。こうした背景から、化合物を自動で合成する新しいロボットをつくば研究所(茨城県つくば市)に導入した。
鉄道のレールの歪み検知など高度な安全性技術を持つ日立ハイテク(東京都港区)と連携し、頑丈なロボットシステムを開発。7月に稼働を始めた。
休みなく働くロボットは、チーム内から厚い信頼を寄せられている創薬の達人が操るという。実験の自動化により網羅的な検証が可能になるだけでなく、それがビッグデータを生み、AIが学習することによって高精度なデータ駆動型の創薬が完成する。AIとロボットの協働が次のシステイノミクス創薬の地盤をつくる。