ニュースイッチ

木造住宅の安全性がすぐに分かるAIシステムの仕組み

木造住宅の安全性がすぐに分かるAIシステムの仕組み

4色のLEDと音声で建物の安全性などを知らせる

松本設計ホールディングス(HD、東京都国立市、松本照夫社長)は、人工知能(AI)センサーを利用した木造建築物の即時耐震診断システム「AI耐震診断」と同システムのデータを活用し、住宅などの資産価値を見える化する「AI維持管理」の社会実装を目指している。同システムは木造建築物において、地震後の安全性や避難の要否、改修基準をAIセンサーが推定して即時に示す。自宅などの状況確認のほか、普及が進めば自治体が地域の被害状況を把握するツールとしても期待できる。

松本設計HDは木造の民間住宅や中大型施設の建築設計を手がける。即時耐震診断システムに使う「AI耐震診断装置」の基となる装置は、東京大学の板生清名誉教授が理事長を務める「ウェアラブル環境情報ネット推進機構」などが開発した。松本設計HDは同システムの社会実装に適していることから、AI耐震診断装置を発展させ、住宅用に適した安価で小型装置を使ったシステム構築を進めている。

同装置の試作品は本体が約10センチメートル角で、厚さ約2センチメートル。内部に地震加速度センサー、中央演算処理装置(CPU)、LTE通信装置、非常電源バッテリーなどを備え、建物の階ごとに1台を壁面に固定して使う。装置には、あらかじめ設置する建築物の構造や重量、剛性、耐力といった耐震性能に関わるデータを入力しておく。

LTE通信で情報をデータベースに送り、スマホなどで確認できる(即時耐震診断システムの概要)

地震が起きた際、大きさ・エネルギーを計測し、建物の耐震性能と照らし合わせて安全性などを即時に判定。データはクラウドに送信し、遠隔地でもスマートフォンで診断結果を確認できる。即時性に加え「危険度判定を細分化し、一時的な避難の必要性や改修程度を発光ダイオード(LED)ランプの色で見える化した」(平間敏彦同社技術開発室室長)のが特徴だ。これまで大地震後の建物の危険度判定は人手により行われ、数カ月を要するケースもあった。

従来、地震後の安全性評価システムは主に中高層ビル用に作られ「一般的に数百万円からの導入費用が必要で、解析・評価にある程度時間がかかっていた」(同)という。AI耐震診断では小型センサーを使い、新たな診断方法を採用したことで、安価なシステムとして一般住宅向けに提供できる。

さらに、センサーのデータを活用して木造建築に対して地震による影響や経年による構造性能の低下、改修・リフォームなどを加味し、残存価値を見える化するシステム「AI維持管理」も展開していく。松本社長は「2023年をめどに製品化、提供を開始し、将来的に木造建築業界のスタンダードなシステムにしたい」と意気込む。(多摩・藤野吉弘)

日刊工業新聞 2022年10月07日

編集部のおすすめ