大型プロ終了後は研究室解体…、理研の雇止め問題が鮮明にした課題
【取材記者の考察】
「理研は優秀な人材を集めてドリームチームを作り研究に没頭できる環境を与える場所」と前理事長の松本紘先生に習いました。そのドリームチームが漂流してます。ドリームチームの多くは国の戦略的な研究投資を受けています。いわゆる選択と集中で選ばれた側に当たります。一方で、国の政策は同じプロジェクトを何年も続けることが叶いません。大型事業では半ば強制的に代替わりを促してまでプロジェクトの顔を変えたり、新しいコンセプトを入れて衣替えしていきます。国から切れ目なく予算を確保するのは非常に困難です。そのためドリームチームであっても金の切れ目が縁の切れ目になり得るのですが、ドリームチームの組成に多大なコストがかかっています。若手を入れて異分野を勉強させて、合わなかったら外に出して、優秀な人材は引き抜かれてと、人を入れ換えながらドリームチームを作ります。そこにはたくさんの人生がかかっていて、コストの三文字では片付かないものがあります。
論文を書いた研究者やラボ主宰者だけが注目されがちですが、最先端の融合領域ほど人材は組み合わせ最適でその力を発揮します。本来、ドリームチームが42チームも放出されるなら研究機関の経営層にとっては垂涎の的です。自らが輩出する人材でドリームチームを作れない大学はたくさんあります。優秀な若手が毎年安定供給される大学は数校に限られていて、ラボ主宰者を引き抜いて何年もかけて研究室を立ち上げさせるコストを省いて、ドリームチームの中核メンバーにまとまって来てもらえるチャンスです。そこに私大なら学生をたくさん投入し、企業だったらインターン生などをあてて環境を整えて、チームとしてのラストチャンスをかけてプロジェクトを走らせます。
また、理研は雇用制限を撤廃して無期転換権の有無にかかわらず人材を採用することにしました。すると有期のプロジェクトに無期の人材を当てることになります。人材とプロジェクトのマッチング問題が次のプロジェクト終了時に先送りされた形です。数年間の猶予ができたので、次の次のプロジェクトを見据えた人材開発が可能になります。経営としては従来のプロジェクト管理でなく、精緻なタレントマネジメントが必要になります。予算とプロジェクトに人材をぶら下げるのでなく、一人一人を評価して抱えているプロジェクトに当てていくことになります。これを専門性の高い人材と広大な研究領域でやることになります。
例えばデータ分析業務とあっても、生命科学と量子物質ではデータの成り立ちや流行ってる解析技術が違います。融合研究を進めるための背景知識も必要です。仮に次のプロジェクト終了時に次の次のポストを確保できずに訴訟になったら、どうやって業務がなくなったと説明するのか、どこまでやれば雇用主としての義務を果たしたことになるのか。分野が違えば同じデータ分析業務で別物と言えるのか。人材開発と解雇時の訴訟対策など、従来のプロジェクト管理とは違うレベルで進めないといけません。