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大型プロ終了後は研究室解体…、理研の雇止め問題が鮮明にした課題

無期契約・転出後の財源支援

理化学研究所の雇い止め問題で大型研究プロジェクト終了時の課題が鮮明になった。理研は世界から優秀な人材を集めて一定期間、研究に集中させる場として機能してきた。7―10年と長期の研究プロジェクトを通して精鋭チームをつくるが、プロジェクトが終わると引き取る研究機関がない。結果、研究室は解体され、チームとしての価値が失われる。その是非が問われている。(小寺貴之)

理研では2023年3月末に42のラボがプロジェクトを終了し、380人が雇用契約を終える。理研では19―21年度は毎年170人程度が契約を終え転出した。22年度は2倍強に膨らみ社会の関心を集めることになった。理研に限らず、東京大学など大型プロジェクトをいくつも抱える組織の共通課題として注目されている。

問題を受け、理研は10年間の通算契約期間の上限を撤廃する。425人の新規の雇用枠を用意し、この採用では応募者の無期転換権は一切勘案しない。380人に対して実力でポストを勝ち取るよう促した。同時に職員へのキャリアコンサルティングや研究者への転出前後の研究財源支援などを設ける。文部科学省には「理研は現在取り得る最良の最適解を出したのではないか」と評価する声もある。

問題は研究職や研究支援人材がそれぞれ労働市場に放出され、チームとしての価値が勘案されてない点だ。理研が進める先端研究は融合領域にあたる。生命系なら生き物の飼育や分析技術、有機化学、情報科学などの人材がチームを組む。量子物質系では理論と実験、計算機、データの優秀な若手が集まる。

異なる専門性の人材が互いに学び合いながら時間をかけて一つのチームになる。研究チームが成熟するのに3―4年かかり、ピーク後2―3年でプロジェクトの終わり方を模索し始める。国の戦略投資で精鋭チームを作り、各研究者はチームだから能力を最大限発揮できている。しかしチーム組成のコストや価値は評価されない。

本来、精鋭チームは私大や地方大にとって獲得したい対象だ。それでも移籍が少ないのは規模の問題がある。大学研究室の多くは給料を受け取る人間が3―4人しかいない。定員を変えずにプロ研究者10人のチームを獲得するとなると大学は研究室3―4個を廃止する必要がある。

これらは日本の大型プロジェクトが抱えてきた課題だ。例えば東大や京都大学などが大型研究を進める世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)でも支援終了後のあり方が模索されてきた。そこで23年度から持続的発展経費を設ける。

10年事業のWPI後半5年間で獲得した外部資金に応じて国の資金を11年目以降も拠出する。社会や産業界からの評価に応じて国も支える仕組みだ。文科省の西山崇志基礎・基盤研究課長は「大学が先行投資する体力と予見性を作らなければならない」と説明する。

海外では国の支援でできた精鋭チームを米巨大ITなどがまるごと引き抜いて問題になってきた。人工知能(AI)や量子分野では大学が骨抜きになると懸念されてきた。対して日本はチーム組成の価値もコストも認識されていない。

移籍先の大学が数年支えれば精鋭チームは研究予算獲得の目玉になり得る。日本の科学技術関連予算総額は増えており、産業界や海外を含めて予算獲得に動けば大学はポストを増やせる。チームとしての価値を発信していく必要がある。

日刊工業新聞 2022年11月07日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
研究室主宰者に丸投げせずに研究所としてタレマネ機能を担保するなら、個人には複数の研究プロジェクトを兼任してもらっていろんなスキルやラボ運営を身に付けてもらったり、大型プロジェクトの責任者などに人材を売り込んで交渉してポストをとってくる機能も必要なかもしれません。人事部門に挑戦的な仕事が生まれたともいえると思います。労働市場では人材をバラ売りすると買いたたかれます。専門性の高い人材はポストと人材をマッチさせるのが難しいです。組み合わせ最適で人材の価値が発揮されているならチームとしての価値を見える化しないといけません。専門性の高い研究人材とそのチームの価値を最も理解しているのは、チームを抱えてきた組織自身です。その活動が鈍いならドリームチームの買い時です。ラボごと引き抜いてしまうチャンスです。

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