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日本は縮小…需要増期待のインド市場を狙う化学農薬大手3社、それぞれの戦略

日本は縮小…需要増期待のインド市場を狙う化学農薬大手3社、それぞれの戦略

住友化学はインドで非化学農薬の商機も狙う(インドの農地)

日本の大手化学農薬メーカーがインド事業を強化している。現地企業との合弁設立やM&A(買収・合併)が相次ぎ、農薬の有効成分を製造する新プラントの建設計画も進む。アジアは南米と並び農薬需要の伸びが期待される地域で、その中核市場としてインドが注目されている。同国で農薬を製造・販売する大手3社の戦略に迫った。

日本は作付面積が減少傾向で、農薬市場は縮小が予想される。一方で、食料需要の高まりを背景に、世界の農薬市場は安定的な成長が見込まれる。英調査会社アグバイオインベスターの予測によると年平均2・2%のペースで市場は拡大し、2026年に734億ドル(約10兆円)規模に達する見通しだ。

特に成長をけん引する地域が、南米とアジアだ。南米は世界有数の農業大国ブラジルを有し、穀物を中心とする食糧・農業関連の投資を積極的に受け入れてきた。

そして、アジアの中核市場として位置付けられるのがインドだ。農地面積が約1万8000キロ平方メートルと、日本の約40倍。また国連食糧農業機関(FAO)の統計では20年の農薬使用量は世界平均が1万平方メートル当たり1・81キログラムに対し、インドは0・37キログラムに留まり、今後の使用量増加が期待できる。インドは人口増加が続き、作物の生産効率向上は喫緊の課題だ。25年までにインド農薬市場は年4%以上のペースで伸びるとの予測もある。

インドは日本と比べて安価に農薬が生産できる点も利点だ。一般的に農薬事業は新剤の研究開発から事業化まで10年単位の投資が必要。発売後も数年かけて販売実績を積み上げ、投資回収に移る。原体生産コストの抑制は、投資回収期間の短縮につながる。

東南アジアの需要地に近い地理的特性も見逃せない。多国展開を前提とした農薬の開発が増える中、輸出拠点としての魅力も高い。

日系農薬メーカー各社は、インドで現地企業と連携しながら生産・販売体制を強化し市場への関与を強めてきた。持続的な成長を実現するには、現地の栽培環境により適した新剤や混合剤の投入が欠かせない。市場が成熟するにつれ、外資系メーカーや安価なジェネリック品との競争が待ち受けるからだ。

農業生産者のニーズを把握するだけでなく、ニーズの「先読み」も必要。日本の農薬メーカーは、温暖多雨で病害虫が発生しやすい日本での事業展開で、生産者の多様な課題を解決してきた。蓄積してきた開発力や技術は強み。それをインドでどう生かすかが、問われる。

【住友化学】非化学農薬の販売伸ばす

インド市場で先行するのが住友化学だ。2019年にインドの後発薬大手の旧エクセルクロップケア(マハラシュトラ州ムンバイ)を買収し、20年に現地事業会社の住友化学インドと合併した。合併後の住友化学インドは、22年3月期の売上高が432億円に上り、インド農薬市場においてスイス・シンジェンタに次ぐ2番目の規模。農薬の原体製造から製剤化まで設備を有し、除草剤や殺虫剤など幅広く展開している。住友化学は24年度に農薬事業の売上収益の約1割をインドで稼ぐ計画だ。

同社は「(微生物農薬や植物生長調整剤など)バイオラショナルの販売を伸ばすため、インドでも啓蒙活動を進めている」と戦略を明かす。

農薬の生態系への影響を軽減するため、世界的に化学農薬は規制強化が進む。それに伴って非化学農薬は、持続可能な食料生産への関心の高まりから需要が増えている。インドでも化学農薬を規制する動きがみられ、バイオ農薬の使用量は増加している。住友化学は先手を打って市場攻略に動く。

【日本農薬】水稲用殺虫剤を本格展開

日本農薬は約10億円を投じて新プラントをインドに建設し、22年末をめどに稼働する。水稲用殺虫剤「オーケストラ」をインドで本格展開するためで、その有効成分となるベンズピリモキサンを最大で年間約200トン生産する計画だ。

このオーケストラはウンカ類やツマグロヨコバイに防除効果を示す。ほかに海外飛来や既存剤に抵抗性を持つ害虫にも有効という。インドは東部や南部でコメ栽培が盛んで、水稲栽培面積は日本の約30倍と広大だ。日本農薬は、新プラントをテコにして30年をめどにインドで約60億円の売り上げを目指す。

日本農薬の水稲用殺虫剤「オーケストラ」はウンカ類やツマグロヨコバイに防除効果を示す(トビイロウンカが引き起こす「坪枯れ」被害)

また新剤の現地生産プロジェクトと並行して、現地子会社のニチノーインディア(テランガナ州)のマーケティング機能を強化する。同社の事業範囲をインド南部から全域に拡大する。

「グローバル企業と正面から戦う方針はとらない。ニッチ分野かつ直売していることが強みだ」と岩田浩幸社長は強調する。インドでは現地企業と提携しつつ、自社による販売網の開拓を積極化し足場を固めを急ぐ。

【日産化学】初の海外プラント建設

日産化学は現地合弁会社を通じ、インド北西部のグジャラート州に農薬原体の製造拠点を建設する。投資額は約60億円。海外における農薬事業のプラント建設は初めてで、インド国内向けに加え、日本や東南アジアへの輸出も視野に入れる。22年度中に製造を開始し、小野田工場(山口県山陽小野田市)とインド工場の2拠点体制とする。

同社はインドで現地企業との関係を深め、需要の取り込みを強化してきた。13年から大手メーカーのバラット・ラサヤン(デリー準州、ニューデリー)に農薬などを生産委託し、20年に合弁会社を設立。さらに、他の現地企業を通じて、主力の野菜用殺虫剤「グレーシア」のインド販売を始めた。栽培が盛んな茶分野の農薬開発も検討する。

日産化学は今年度中にインドで農薬原体の製造を開始し、小野田工場とインド工場の2拠点体制とする(小野田工場)

また、27年度をめどに新たな水稲用除草剤の発売を計画。幅広い環境条件で性能を発揮できることが特徴で、「アジアを中心に販売し、海外市場を見据えた開発を進める」(八木晋介社長)と方針を語る。新プラントでの原体製造も視野に入れ、海外展開を見据えインドの生産網とコスト競争力を生かす。

日刊工業新聞2022年10月4日

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