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高卒生を将来のエンジニアに、TKCが珍しい採用活動に取り組んだきっかけ

学費支援で学位取得も
高卒生を将来のエンジニアに、TKCが珍しい採用活動に取り組んだきっかけ

学費支援で学位取得も

TKCは高校の新卒者を将来のエンジニアとして採用している。入社後は会社が学費を負担(入学金は全額、授業料は3分の2)し、提携する大学で学位の取得も目指す。業界では珍しい施策で、新入社員教育を担当する谷口玄太郎開発標準推進部課長は「優秀な学生を積極的に採用し、情報通信技術(ICT)に精通するエンジニアとして育成したい」と力を込める。

同社は従来、高卒者をデータセンター(DC)のオペレーターとして採用。一方、エンジニアなどシステム開発職の採用条件は大卒者などに限っていた。エンジニアを目指す高卒者は2020年度に1期生が入社し、24年度ごろまでに100人規模を採用する。

取り組みのきっかけは新型コロナウイルスの感染拡大。経済が混乱する中、飯塚真玄名誉会長が「成績優秀でありながら進学を諦めないといけない栃木県の高校生を支援しよう」と発案した。同社は祖業の地である栃木県を中心に地域貢献を重視し、創業者の飯塚毅氏が設立した育英会を通じて地域の学生を支援してきた。

高校の新卒者は「クラウドエンジニア」と呼ばれる。採用翌年の1月に各事業部門に配属され、この間にビジネスの基礎知識やウェブ、プログラミングなどの研修を受ける。「配属前に少しでも不安を解消できるように、仕事に必要な知識をしっかり習得してもらうことが大切」(谷口課長)。

クラウドエンジニアは主に既存製品の画面表示速度やデザインの向上を担う。システム画面の品質は製品の競争力に直結するため、担当する人材を厚くし、製品の訴求力をより高める狙いだ。

またクラウドエンジニアは業務のかたわら、作新学院大学経営学部で124単位を6年間かけて履修する。教養や語学を体系的に学ぶことで「人間としても成長してもらいたい」(同)考えだ。

また、飯塚毅育英会の永井伸一事務局長は「孤独感を感じさせないように、寄り添った育成が必要」と話す。各人にトレーナー役の社員を付け、仕事や生活の相談を気軽にできる環境を整えている。

4月に3期生の19人を採用し、クラウドエンジニアは36人になった。6月にはキックオフイベントを初開催。1期生が仕事と学業を両立していることを力強くスピーチし、経営陣はその成長ぶりに目を細めたという。優秀な高卒生の採用が難しさを増す中、TKCでは若い力が着実に育っている。(栃木支局長・小野里裕一)

日刊工業新聞2022年10月5日

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