チタンで電源不要、新開発「小型超高真空装置」の用途
日本原子力研究開発機構の神谷潤一郎研究主幹と大久保成彰研究主幹は、チタンを使うことで電源不要かつ小型の超高真空装置を開発した。チタンの特性である気体を吸着・吸収する能力を生かし、チタンで作った真空容器そのものを真空ポンプとした。真空ポンプを稼働し続けなくても、200日以上超高真空状態を維持した。電子顕微鏡や半導体装置の小型・省電力化のほか、電源なしで真空を保つ半導体輸送容器への応用が期待される。
気体を材料表面に吸着、材料内部に吸収する「ゲッター性能」を持つチタンに着目。チタン製の真空容器の表面改質法を新たに開発し、真空容器の壁に気体を吸収・吸着する機能を持たせた。これにより、容器自体を気体ためこみ式の真空ポンプとすることに成功した。実際にチタン製真空容器を試作し、電子顕微鏡に取り付けて検証した。その結果、顕微鏡内の圧力は、従来の真空ポンプだけの場合の約10分の1に改善できた。さらに試料交換時、測定可能圧に戻すのに従来は10分程度かかっていたが、瞬時に圧力回復できた。
通常のチタン表面は酸化膜で覆われているため、これをスパッタリングにより除去しチタンを露出した。さらに、大気開放時に再度酸化膜で覆われて性能が失われないよう、ゲッター材料をコーティングして保護した。大気開放しても加熱処理だけで機能を回復する。これまで1×10のマイナス6乗パスカル未満の超高真空状態を作るには、排気速度の大きな真空ポンプで真空容器内の気体を排気し続ける必要があり、装置の大型化や消費電力増加を避けられなかった。
また、開発した真空容器は、半導体輸送の際にバッテリーの空輸規制にかからず、従来のステンレス鋼を使う真空容器に比べ4割程度軽くできる。
日刊工業新聞 2022年9月8日