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「新型原子炉」開発競争が世界で活発化、日本勢が存在感を示すカギ

脱炭素で再脚光
「新型原子炉」開発競争が世界で活発化、日本勢が存在感を示すカギ

日揮HDがIHIが参画するニュースケールのSMR発電所(完成イメージ)

脱炭素の流れを受け、原子力発電の有用性を再認識する動きが広がっている。日本では岸田文雄首相が「クリーンエネルギー戦略」の策定を表明。再生可能エネルギーとともに、原子力の技術開発を推進する。欧州では欧州連合(EU)が原子力を脱炭素に貢献するエネルギーに位置付ける方針を示した。原発への関心が高まる中、新型原子炉の開発競争も世界で活発化。日本勢は米国との協力関係の強化がカギとなりそうだ。(冨井哲雄、孝志勇輔、戸村智幸、編集委員・鈴木岳志)

【米高速炉に参画】次世代原発ノウハウ蓄積

政府は米国で進む次世代原子炉への参画を重視している。萩生田光一経済産業相は1月、米エネルギー省のグランホルム長官に、小型モジュール原子炉(SMR)や高速炉の国際連携による実証に、政府として取り組む方針を伝えた。日米の協力関係を通じて、先進技術や知見を蓄積する思惑がある。

日本原子力研究開発機構三菱重工業が、実用化が期待される米国での高速炉の開発計画に協力を表明したことは、原子力技術の革新に乗り遅れないためにも重要だ。政府はSMRや高速炉について「エネルギー基本計画に基づき、国際連携や民間の創意工夫を活用して、研究開発や技術実証を推進する」(萩生田経産相)方針だ。

半面、国内では原発の明確な戦略を欠く状況が続く。東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、原発の議論は封じられたままだ。政府が2021年秋にまとめた「第6次エネルギー基本計画」で原発の建て替えや新増設が見送られ、再稼働も進んでいない。このままでは原子力産業が縮小し、蓄積した技術が失われかねない。

脱炭素の実現と将来の安定的なエネルギー供給を目指す政府の「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者会合では、建て替えに取り組むべきだとの意見が出た。国内にはプラントメーカーを中心に原子力のサプライチェーン(供給網)が形成されているが、原発の先行きが見通せず撤退や廃業が相次ぐ。脱炭素をきっかけに原発に回帰しようとする動きが海外で広がる中、国内での議論をこれ以上先送りにはできない。

【海外“武者修行”】人材確保・技術継承、国内では見込めず

高速炉やSMRなど、次世代原発の実用化を見据えた企業の動きが活発だ。三菱重工と原子力機構は1月、米テラパワーのナトリウム冷却高速炉計画に協力する覚書を結んだ。両者は16年に廃炉が決まった高速増殖炉「もんじゅ」などの知見で計画を支援。三菱重工には原発人材継承の狙いがある。

ナトリウムで冷却する高速炉は、軽水炉よりも高レベル放射性廃棄物の減容化と有害度低減をしやすい。核燃料サイクル確立の上で開発の意義は大きい。三菱重工は高速実験炉「常陽」やもんじゅに主要メーカーとして参画。培った設計・開発などの知見でテラパワーに貢献していく。

国内で原発の新増設や建て替えが見込めず、原発人材や技術の継承が課題だ。テラパワーに協力し、経験を積ませる。政府は18年のロードマップで、21世紀半ばごろの高速炉の運転開始を示した。計画具現化の際、三菱重工は主要メーカーとして関われるよう、高速炉の人材や技術を維持することを目指す。

【SMRが中心】再生エネの調整電源 日本勢、受注狙う

SMRは参入を目指す企業が相次ぐ。複数の炉を個別運転して出力を調整でき、出力変動しやすい再生可能エネルギー発電の調整電源の役割が期待される。日揮ホールディングス(HD)とIHIは21年にそれぞれ、SMRを計画する米ニュースケール・パワーに出資した。同社は29年に米国で初号機の運転を計画する。日揮HDはプラントの設計・調達・建設(EPC)ノウハウで参入を目指す。

初号機のEPCを担う米フルアに日揮HD子会社が協力し、ノウハウを獲得。日揮HD子会社はニュースケールが将来、中東や東南アジアでSMRを手がける際、EPCの受注を目論む。IHIは原発の格納容器や圧力容器を手がけた経験を基に参入する。主要機器や原子炉建屋の構成モジュールの受注につなげる。

IHIがSMRに着目した背景には、国内の原発の建て替えや新増設が見込めないことがある。緒方浩之理事・資源・エネルギー・環境事業領域原子力SBU長は「現状では技術や技能の維持・向上は難しい」との認識を示す。SMRの受注で技術者が経験を積み、「国内での安全性向上と安定操業につなげる」と狙いを説く。

SMR案件が具体化した企業もある。日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力合弁会社の米GE日立ニュークリア・エナジーは、カナダ電力事業者のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)からSMR「BWRX―300」を受注する見通しとなった。早ければ28年に完成する。日本メーカーが関与してSMRを受注するのは初となる。

GE日立は21年末に、カナダ東部都市のトロントに近いダーリントン新原子力発電所計画の技術パートナーに選ばれた。OPGなどは22年に建設許可を申請し、最大でSMR4基を建てる計画だ。

ポーランドでもBWRX―300設置に向けた検討が進む。GE日立が協力するポーランド最大の民間企業グループ傘下のシントス・グリーン・エナジー(SGE)は30年代初頭までに最低10基を建設する意欲を示す。カナダでの受注内定が追い風となりそうだ。

日刊工業新聞 2022年2月18日の記事から一部抜粋

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