「駅=目的地」に、駅ナカ店舗活性化へ近鉄があの手・この手
近鉄リテーリング(大阪市天王寺区、大矢茂伸社長)は、近畿日本鉄道の駅のニーズや特性に合わせた駅ナカ店舗の開発を進めている。大阪のターミナル駅の大阪難波駅では有人特急券売り場をコーヒー店に転用した。奈良では橿原神宮前駅に奈良らしさを感じてもらう酒屋を誘致し、大和西大寺駅では行き交う電車を見るための展望デッキ席のあるフードコートを設けた。「コロナ禍で沈んだムードがあるが駅ナカ施設開発で駅を活性化したい」(事業開発部)と意気込む。
特急券はインターネット購入が主流となって利用者が減っていたため、大阪難波駅では有人特急券売り場を改築してコーヒー店「カフェ・チャオ・エクスプレス」を開設した。特急乗車前の顧客がスムーズに利用できるようにメニューの数を絞った。
駅施設の店舗転用は初めて。周辺にあった券売機の電源や壁の時刻表、特急情報のポスターなどを残しつつ、店舗のために新しい設備を導入するなど苦労も多かった。
コーヒーは1杯ずつ抽出するこだわりを持つ。「特急に乗る時はいつもあの店のコーヒーという目的になる印象付けをしたい」(同)と狙いを説明する。
橿原神宮前駅は皇族が利用する由緒正しい駅。そこにふさわしい店舗として喜多酒造(奈良県橿原市)の店舗「みよきく」を招いた。酒蔵巡りイベントとの連携、日本酒と名産品とのペアリングなどで地域と日本酒を知る場とする方針。女性客も気軽に立ち寄れるようにスタンディングバー形式とした。
大和西大寺駅は奈良線と京都線・橿原線が平面で乗り入れ、線路が複雑に行き交う。駅ナカ商業施設の大幅リニューアルに向けて行った駅利用客へのアンケートで「イートイン可能な店舗がほしい」との声があり、これに合わせて開設したのが眺望ダイニングスペース「ビューテラス」。展望デッキ側に大きな窓を設け、電車を眺めながら酒や食事を楽しめる。
店舗開発は新規企画が可能な空きスペースを選定して業態を検討、テナントを探して誘致するテナントリーシングなどを行う。近鉄としてどうしたいかではなく、駅利用客のニーズに合っているのか、喜んでもらえるかの視点で企画する。規模の大小があり、数カ月で終わる場合や数年かかる案件もある。
駅ナカ店舗のオープン時にはインフルエンサーを招いて交流サイト(SNS)に投稿してもらったり、車掌が車内アナウンスで鉄道利用者に案内したりしてPRしている。「駅自体が目的地になるサービスを展開し、近鉄沿線に住みたいと思われたい」(同)との思いで開発を続ける。